春も終わりを告げ、いよいよ梅雨の季節に入りました。今年の春は皆さんにとってどんな季節でしたか?  過去2回、『地球に生きること』では「土」と「緑」をテーマに取り上げてきました。共に私たちの身近にありながら、動くことも語ることもなく、ただ静かに地球の生態系を支え続けている2つの自然。今年の春、あなたはそんな「土」や「緑」とふれあう機会を持つことは出来ましたか?  今年は(今年も)”土の匂いをたくさん嗅いだ。””緑とたくさんお話をした。”という人ならきっともうご対面しているはず…。今回は「虫」がテーマです。
好きな虫、嫌いな虫
 本当に身近な生き物である虫たちと「共に生きる」ことができないで、人間はイルカやクジラや他の生きものと「共に生きる」ことができるのでしょうか?

 先ずはみなさんに質問です。

●質問1 あなたはこの春、モンシロチョウとアゲハチョウを見ましたか?
 子供の頃、虫はとても身近な動物だったはず。でも大人になってしまうと、アリがエサを運ぶ姿を見つけてはジッと観察したり、チョウがヒラヒラと舞う姿を見つけては喜び、追いかけたり…なんてことはあまりないのではありませんか?
 それどころか「そういえば、この春、チョウなんて見たかな?」なんて人もいるのでは。「チョウも人間の開発のために減っているのかな?」…確かに私たちの身の回りにチョウが生息するのに適した場所が減少していることは確かです。ナラやクヌギといった広葉樹の多い雑木林は、土地開発や木材用のスギやヒノキの植林によって減少。河原の草むらも、河川の護岸工事により減少。こうした「もっと沢山、もっと便利に」という考えで進められた人間の行為によって、ギフチョウやミヤマシジミなどあまり姿が見られなくなったチョウもいます。
 しかし、モンシロチョウやキアゲハなどはむしろ都市の中でも人間と共存しているチョウと言われています。(質問1)に「いいえ」と答えたあなた。それは、環境の変化だけでなく、むしろあなた自身の生活の仕方や心のあり方に原因があるのかもしれません。

 環境が複雑であればあるほど生物の生息する可能性が高くなりますが、わたしたちを取り囲む風景は、人間の開発によってどんどん単調なものになっていきます。しかし、それ以上にあなた自身の生活が単調になっていませんか?例えば毎朝歩く駅までの道。わき目も振らずダッシュしてませんか?
 少し、あたりの景色を見回してみれば、庭の植え込みや鉢植えの花などにヒラヒラとチョウが舞う姿を見ることが出来るはずです。心と時間に余裕があれば、たまには別の道を通ってみることもできるでしょう。都会でも虫とのふれあいはまだまだ可能なはずです。

●質問2 最近、ゴキブリ、ハエ、カを見ましたか?
●質問3 「見た」と答えたあなたに
      …そのとき、その虫をどうしましたか?

 いま、あなたの視界の隅を茶色いものがカサコソと動いたら…。いま、あなたの耳に、ブーンという微かな羽音がひびいたら…。手ですか?新聞紙?ハエタタキ?それとも「殺虫剤」?
 アリやチョウなど見てない人も、ゴキブリ、ハエ、カなら見るのでは?しかもゾウやクジラが殺されるとかわいそうだとなみだを流す人も、ゴキブリ、ハエ、カなら簡単に「シューッ」と、いとも簡単に殺してしまいます。「多少殺しても絶滅しそうじゃない」から?或いは「ゴキブリ、ハエ、カは害虫で、絶滅してもいい」から?
 チョウやアリには気付くことなく、ゴキブリ、ハエ、カは殺してしまう。あなたという一人の人間が、本当に身近な生き物である虫と共に生きることができないで、人間はイルカやクジラや他のいきものと共に生きることができるのでしょうか。


天敵がいるはず
 全てのつながりが見えていなくて、目の前の好ましくないものを退治するのに必死になる。そうして人間は直接、間接にこの地球のつながりのバランスを崩しています。

 皆さんのおうちにも必ず一本は化学薬品でできている市販の殺虫剤、防虫剤、虫除けスプレー等があると思います。一見自然に近いように思える蚊とり線香もいまは除虫菊ではなく、化学薬品を使って作られているそうです。
 ゴキブリなど見つけると何の疑問もなく、「シューッ」と一吹きしてしまう殺虫剤。しかし、狭い室内で、虫という一つの生命を絶つことのできるクスリを撒くのは、人体や虫以外の生き物にもきっと良くないはずです。(あの刺激のある匂いで分かりますよね。最近はその匂いを消したものもあるそうですが…)庭や家庭菜園やベランダの植木鉢に使う化学農薬も同じです。最近では無農薬栽培の野菜を選んで買う人も多いようですが、自分の口に入る野菜は無農薬有機栽培で、庭の植木には「シューッ」でいいのでしょうか?

 虫には必ず天敵というのがいるはずです。私たちの身の回りに、虫を食べるいきものがいれば、必要以上にハエやカが増えることも抑えられます。彼らの代表的な天敵は小型の鳥やカエル、あるいはクモなど。しかし、田畑が減少し、身の回りのスズメの数も減っています。更にカエルなどの両生類にはもっと大きな変化が訪れています。
 この季節になればゲロゲロと鳴き声がどこからともなく聞こえるはずですが、大きなトノサマガエルを最近見かけたことがありますか?(トノサマガエルは緑色の大きなカエル。茶色くて大きいのはツチガエルです。お間違えなく)
 水田や川辺から響くカエルの鳴き声は(嫌いな人にはたまりませんが)日本の夏を感じる一つの風物でもあります。僕自身の経験でも父の田舎(岡山県内陸部の静かな盆地)で夏休みを過ごすと、昼間いくら暑くても、夜や明け方は水田を渡る風がひんやりと涼しく、蚊帳と畳の匂いとともにカエルの鳴き声が夏の心地よいイメージとして残っています。
 しかし、水田を削りアスファルトとコンクリートで大地を被った都市部の気温は太陽の影響以上に跳ね上がります。その中でも涼しくすごすためにとクーラーをどんどん取りつけ、使ってきました。そして、そのクーラーや冷蔵庫の冷却剤として使われているフロンが、大気を包むオゾン層を傷付け、生物の遺伝子を傷つける有害な紫外線が地上に降り注ぎ始めています。そして、粘膜質の皮膚しかもたないアマガエルやトノサマガエルは、この紫外線によって遺伝子を傷つけられ、減少しています。水田の削減はカエルの棲む場所を奪い、さらに今、オゾン層の破壊はカエルという種の絶滅を引き起こそうとしているのです。
 農作物の害虫を退治する農薬もまた虫の天敵を減少させています。農薬を使っても、やがてその農薬が効かない害虫が生まれてきます。そこでより強い農薬を使うと、またその農薬も効かない世代が生まれてくる…。そんな害虫と農薬のイタチごっこの中で、虫を食べるクモやカエルや鳥の体内にはどんどん農薬が濃縮していきます。

 全てはつながってます。そんな全てのつながりが見えていなくて、目の前の好ましくないものを退治するのに必死になる。そうして人間は直接、間接にこの地球のつながりのバランスを崩しているのです。私達人間もこの問題に無縁ではありません。少なくとも、農薬や殺虫剤を使うことはグルグル回って、いつか自分自身に影響があるはずです。
 考えて見てください。私たち人間は自分たちに都合の悪い虫を害虫と呼び、それらを抹殺しようとして殺虫剤や農薬を発明し使用してきました。しかし、何年も使っているのに一向に抹殺できていません。かわりに、好きな虫がいなくなり、いつのまにか周りは”虫の好かない”虫だらけになっていませんか?


虫と共存〜棲みわけしてみる 「今年は、いやな虫たちも、殺すのではなく、遠ざけてみよう」
 つながりを考えれば、ゴキブリ、ハエ、カとも仲良く生きていくことが必要ではないでしょうか。好んで一緒に生活することもありませんが何も殺さなくたっていいわけです。彼らは彼らなりの役割があって生きています。しかし、なにもカにだまって血を吸わせたり、食べ物に虫が付くままにしておくことはありません。決して衛生上いいことではありませんから。
 じゃあ、どうすればいいのか?『誰もおしえてくれない環境にやさしい虫退治』(山田園子著/有限会社エコフレンズ発行)に教えてもらいましょう。
 基本は…「まず来てほしくない虫が入ってこないような条件をつくり、虫が現れたら出ていってもらうように対処し、どうしても無理な時だけ退治」することだそうです。
 「網戸」とか「大掃除」とか「虫干し」といった昔ながらの生活の知恵や、最近人気のあるハーブやそのエッセンシャルオイル(精油)等を使って環境にやさしい虫退治をする…。さらには、虫の天敵となる鳥がよく来るように、家の庭に実のなる木を植えるとか、ハーブを育てるとか、自然の力をもって虫を遠ざけることも可能です。
 「忙しい」という人も多いのかもしれませんが、ほんの少し、自分の身の回りのことを気に掛ける心の余裕があればできるはずです。地球に生きるうえで、本当に本当に大切なのが何なのかを考えて見ればできるはずです。

 この地球上で生態系のバランスがうまく機能していれば私達人間も健康に生きていくことができるのです。人間も生態系の一部です。人間ばかりが栄え、他の生物が死滅するような状態では遠くない将来、人間も絶滅するでしょう。
 この、梅雨から夏のシーズンにフリッパー「地球に生きること」は皆さんに一つ提案します。
 「今年は、いやな虫たちも、殺すのではなく、遠ざけてみよう」そして「出来るだけ、自然のものを使って、私たちと虫たちの棲み分けを実現しよう」
 10年後、20年後の夏。そして私たちの子供や孫たちの時代に、カエルや蝉の鳴き声を聞けるように…。

(今回の参加者)大下 英和、稲垣 誠二、加藤 広明、水上さよ子、斎藤まどか、大石実、義間 秀樹
(今回のイラスト)小林 美和

◆はみだし情報〜自然のものを使った虫除けの方法◆

◯蚊…
(植物を使って )ローズゼラニュームやレモングラスを栽培
(オイルを使って)シトロネラのオイルを窓枠に数適
〜アウトドアでもテントの入り口に
〜シダーウッド、ラベンダーも効果的。
◯衣類の虫…ラベンダーやミントのドライハーブをたんすに樟脳だけでなく、ラベンダーやミントのドライハーブを、ティーバッグの中につめて、たんすに入れると虫よけにもなり、衣類にほのかな香りがついて気持ちいい。
◯あぶらむし…アルミホイルと牛乳スプレー
 光があまり好きじゃないあぶらむしは葉の裏側にいます。そこで、鉢の表面に少しアルミホイルをおき、太陽を反射させます。どうしても退治したければ、牛乳をスプレーしてください。
◯はむし…葉の裏から水をスプレー
◯なめくじ…エサとして雑草を
 なめくじはあぶらむしを食べてくれます。だから、あまり目の敵にしない。 でも、葉っぱも食べてしまうので、彼らの食べる分として雑草も残しておく。(植えたままがいやなら、せめて下に敷いておいてあげる)
◯その他、ローズ、ゼラニュウムは虫が寄り付きにくい植物。またマリーゴールドは土壌を消毒してくれます。


 特集”地球に生きること”テーマ:[太陽(お日様)] [][] []


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