カスパロフ氏対ディープ・ブルー 各ゲームの攻防
ゲームプログラム解説特別観覧席ディープ・ブルー



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第6ゲーム、カスパロフ氏(白駒)対ディープ・ブルー(黒駒)

引き分けでも今回のACMチェス・チャレンジを制するガルリ・カスパロフ氏は、この最終ゲームで圧倒的な勝利を収め、最終スコアー4対2でディープ・ブルーを下し、チェスの真の天才であることを証明しました。

この第6ゲームでは最初から最後まで、チェス盤の空間を理解するカスパロフ氏の突出した才能が現れていました。このような戦いを演じられるカスパロフ氏は、カパブランカ、スタイニッツ、ボビー・フィッシャーなどの偉大なチェス家に匹敵するチャンピオンといえるでしょう。ゲームの最後の局面では、ディープ・ブルーが引き分けにも持ち込めない状況に追い込まれました。第43手のRb4の後は、黒の駒がすべてクイーン側にくぎ付けになり、キングが無防備に近い状態になったため、ディープ・ブルーのオペレーターは投了する以外にありませんでした。

カスパロフ氏がこのように一方的な勝利を収めることができたのは、コンピューターという相手を非常によく研究していたからです。チェス・プレーヤーの最高峰であるカスパロフ氏は、ディープ・ブルーが征服するには高すぎる山でしたが、大半の専門家はこのディープ・ブルーというマシンの非常に高い能力に驚きました。

第5ゲーム、ディープ・ブルー(白駒)対カスパロフ氏(黒駒)

ガルリ・カスパロフ氏が世界チャンピオンにふさわしい実力を発揮して、ディープ・ブルーを圧倒しました。この勝利で、カスパロフ氏は最終ゲームを引き分けても今回のチェス・マッチに勝つことができます。コンピューターは健闘しましたが、世界チャンピオンにはかなわないいことが第5ゲームで証明されました。

第5ゲームの負けはコンピューターのチームにとって手痛いものでした。というのは、カスパロフ氏が第23手の後で引き分けを申し入れたときに、それを断ったからです。黒駒のカスパロフ氏は、ディープ・ブルーの最初の手e4に対して新しい手を試みました。第1手でe5、第2手でNf6、第3手でNc6と駒を進めたカスパロフ氏は、このゲームを「スコッチ・ディフェンス」という珍しいオープニングの形に持ち込みました。

カスパロフ氏からの引き分けの申し入れを断った後で、コンピューターは 24. Qc3 f5 25. Rd1 Be6 26. Qe3 Bf7 27. Qc3 f4 28. Rd2 Qf6 という疑問手で駒を進めました。ディープ・ブルーの狙いはd4のナイトを守ることでしたが、そうすることで、カスパロフ氏に強力なクイーン・ピンをd行に許してしまいました。人間のトップ・プレーヤーであればナイトを援軍しほぼ確実にクイーンを交換することによって、簡単に互角の体勢に持ち込めたはずです。しかしディープ・ブルーは致命的な窮地に自らはまり込んでしまいました。今回は、ディープ・ブルーが疑問手を打った初めてのゲームでした。ディープ・ブルーは、カスパロフ氏が第47手のh4を打った後で投了しました。

第4ゲーム、カスパロフ氏(白駒)対ディープ・ブルー(黒駒)

第4ゲームでは、黒駒のディープ・ブルーが引き分けに持ち込んで実力を証明しました。第1ゲームと同様、このゲームは公開ゲームでした。カスパロフ氏は、機械の戦法に対して攻撃を仕掛けられないで苛立っているようでした。中盤戦の終わり頃、カスパロフ氏にとって多少不利な戦局になり始め、第40手の時間制限が近づくと、時間のプレッシャーがカスパロフ氏に大きな重荷となってのしかかってきました。しかし、カスパロフ氏は時間制限に達して、引き分けに持ち込む計画を立てました。ディープ・ブルーのチームはカスパロフ氏からの引き分けの申し入れを断りましたが、カスパロフ氏がナイトとポーンを犠牲にしてルークの手を打った時点で、最終的に勝ちをあきらめました。黒のキングが後列でチェックメートされる恐れがあったため、ディープ・ブルーは駒数の有利さを活かせませんでした。ゲームは、第50手で両者の合意により引き分けました。

第3ゲーム、ディープ・ブルー(白駒)対カスパロフ氏(黒駒)

第1ゲームと第2ゲームで勝ちを譲り合った両者は、第3ゲームを3時間半の接戦の末引き分けて、両者のポイントは1.5対1.5と五分のままです。白駒のディープ・ブルーは速攻を試みましたが、カスパロフ氏の固い守りに遮られてゲームを有利に進められませんでした。「シシリアン戦法」をとったカスパロフ氏はコンピューターを徹底的な駒の取り合い戦に引き込み、中盤を飛んで一気に終盤戦に突入しました。カスパロフ氏が有利な位置を確保しましたが、コンピューターは相手の位置的戦術を巧みにかわして引き分けに持ち込みました。

第2ゲーム、カスパロフ氏(白)対ディープ・ブルー(黒)

第2ゲームでは、カスパロフ氏がディープ・ブルーの冷酷な計算能力に対する戦法を見い出しました。カスパロフ氏が勝つためには、高度で精密な読みと忍耐が必要でした。白駒のカスパロフ氏がとった策は、解説者が「逆グリオフェルト・オープニング」と呼ぶ戦法です。カスパロフ氏の全体的な戦法は、prophylaxisという用語で特徴付けられます。これは、ディープ・ブルーの先手を封じ込むとともに、キングを安全な位置に退避させて守る戦法です。結局、クイーンを強制的に交換したカスパロフ氏は、h行のポーンを進めてプロモーションしました。ディープ・ブルーには孤立した黒のビショップしかブロック駒が残っていなかったからです。ディープ・ブルーのオペレーターは第73手目で投了しました。

第1ゲーム、ディープ・ブルー(白駒)対カスパロフ氏(黒駒)

ディープ・ブルーは第1ゲームをものにして、チェス界を驚かせました。人間なら大きなプレッシャーを感じる状況にも、機械は動じません。白熱した終盤戦では、両者ともチェックメートされる寸前までいきました。ディープ・ブルーは冷静に有利な体勢を固めましたが、チャンピオンは時間のプレッシャーで苛立ちがつのりました。ゲームが進行するにつれて、カスパロフ氏は2組のダブル・ポーンをf行とb行に配置するという極端な策をとりましたが、この戦法はカスパロフ氏のdのポーンで相殺されました。このポーンは、いつでもプロモーションできるという脅威をディープ・ブルーに与えました。しかし、ディープ・ブルーはこの状況に冷静に対処しました。第33手でディープ・ブルーが再編したNd6はチェックメート用の駒で、カスパロフ氏の最後のあがき33. ... Re1, 34. Kh2 Nf2, 35. Nf7!をかわしました。この時点でカスパロフ氏は沈み、歴史的な瞬間が訪れたのです。

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