Masayuki Ebinuma×Tatsuo Miyajima
(21st.August.1996 / Nagasaki)



<対談>
海老沼正幸(樹木医)×宮島達男(造形作家)


第1章

「被爆柿の木2世」との出会い

宮 島:
まず、海老沼先生が「被爆柿の木の苗」を育てるようになったきっかけをお聞かせ下 さい。

海老沼:
当初私は、樹木医として被爆後50年にわたって生き延びてきた柿の木を、どうしたら 生かせるかという立場から、柿の木に接してきました。被爆をした木に接している日 々のなかで、柿の木が懸命に生きているという事実に直面し、段々と、私にできるこ とがもっとあるのではないかという思いに駆られていきました。
私ごとですが、家内の父は、かつて長崎で被爆しています。いわば、彼女も被爆2世 になります。被爆柿の木の子どもとなる苗木を我々の次の世代へ受け継いでいければ …。
樹木医としても、ひとりの人間としても、やりがいのある仕事だなという思いが現在 のプロジェクトにつながっていきました。

宮 島:
被爆体験や戦争を知らない世代にとって、被爆した柿の木の2世を育てていくという 体験は、とても貴重なものだと思います。海老沼さんが育てた苗木に、多くの人々の 思いがプラスされてはじめて、2世が育っていくことができる。それが、「"時の蘇生 "柿の木プロジェクト」の大切な部分なのかのもしれませんね。海老沼先生が始めら れた「行動」と「思い」が、柿の木を通してさまざまな人々に伝わっていく…。私た ちは、そうした「心のつながり」の過程を未来へ向けてお手伝いしたいと考えていま す。


海老沼:
被爆の事実を伝えていく作業は、多くの人々がさまざまな形で、取り組まれています 。長崎で毎年行われる平和宣言に代表されるように、各人それぞれが次の世代へ向け て被爆体験を語り継いでいこうとしています。そんな中で私が手掛けたかったのは、 言葉だけではなく、手に触れて、永続的に伝えられる何かを生み出すことでした。子 供たちが、小さな苗木と一緒に、泣いたり、笑ったりしながら歳を重ね、そして成長 していく。それが新しい被爆体験の伝え方なのかもしれないと…。




宮 島:
私が柿の木2世のことについて知ったきっかけは、以前参加した「水の波紋展」とい う展覧会でした。もともと「原爆」というものに対して問題意識を持っていた私は、 東京と長崎を結ぶという「水の波紋展」のコンセプトに、あらためて「NAGASAKI」で 何かをやりたいと思いました。その後長崎を訪れ、いろいろと調べていくうちに、「 被爆した柿の木」があるということを知り、長崎市内に現存する柿の木を実際に見て 回りました。関係者の話を聞いていくうちに、「柿の木の2世の苗木を育ている人が いる」ことを知り、すぐに連絡をとったのが海老沼先生との出会いです。初めて2世 の苗木を見た時、すごく奇麗で、本当に感動しました。そして、強く思ったのが、こ の感動をどうにかして、多くの人々に伝えられないかということでした。それが柿の 木プロジェクトをお手伝いすることになった経緯です。
一方で私は、造形作家ですから、ただ伝えるだけではなく、苗木の持つ「生きるエネ ルギー」をさらに増幅させる「構造」のようなものを新たに構築する必要がありまし た。海老沼先生の仕事をお手伝いしながら、自分としてできることを自分なりのアプ ローチで、加えられないだろうか。そこで私が考えたのが「行動」というアートのか たちでした。つまり、柿の木の苗木という生命を通して、人々に「感動」という因子 が広がっていき、それらに突き動かされた人々がプロジェクトに関わり、各人なりの 行動を起こす。その経過と行動の広がりがすでに「アート」であるということです。 いわば、生き続ける命の尊さをベースに、多くの人々がバトンをつないでいくアート コラボレーション、またはジョイントパフォーマンスのようなイメージを造りたいと 思ったんです。






宮 島:
リアリティのある「柿の木」は、これから多くの人々の下で成長していきます。被爆 という歴史を背負いながらも、柿の木の2世、3世が、新しい世代の人々に助けられな がら21世紀へ向けて前向きに生きてく姿は、子供たちにある種の勇気を与えるような 気がします。東京の柳北小学校の生徒たちが、「少しづつ成長する柿の木の苗を見て いると、元気になる」って言ってくれるんです。「けんかしたり、お母さんや先生か ら怒られたりした時に、柿の木に水をやってると、こんな小さな柿も頑張ってるんだ から、僕も頑張らなくちゃって思って、また元気が出てくる」そうなんです。話を聞 いて、そういう対話を子供たちができることが、本当に大切なんだと、感じました。

海老沼:
「戦争」や「原爆」といった大きなテーマを、子供たちに伝えることは、大変な作業 です。でも、柿の木の苗を育てるという行為は、子供たちと同じ視点でそうした事柄 を伝えられます。「いじめられても、カキちゃんは元気に生きてるんだ」という子供 なりの理解ができる。そして、柿の木をめぐって、全国の子供たちが手紙の交換を行 ったり、自然発生的な柿の木のネットワークが生まれてくる。平和への行動とは、そ うしたことでもあるのかもしれませんね。

宮 島:
平和への原点は、ある意味で「生命そのものを大切にしたい」という強い意志だと思 います。柿の木の苗は、まさに生命そのものです。その生命とつきあっていく。こん なにポジティブな核反対の行動は他にないんじゃないでしょうか。

海老沼:
そうですね。「生き証人」としての柿の木が2世、3世と発展していって、世界中の人 々に受け入れられ、広がっていくことを、私は、苗木を育てていくとい行為を通して 強く願っています。

宮 島:
そうですね。僕は、この柿の木をめぐって起こったことすべてが、アートだと考えて いますし、同時に、この柿の木に関わったすべての人たちがアーティストであると思 っています。だから、このプロジェクトは無限に広がっていくだろうし、あらゆる人 々が参加できるものです。ここから、誰かの手によって、詩集が生まれるかもしれな いし、歌が生まれるかもしれない。将来にわたって何が起こるかわからない、そんな ポジティブなプロジェクトにしていけたらと、願っています。





you can meet kaki.....
you can be artist,too.....
we are wainting for your action.


(第2章は10月1日に掲載予定です)





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