[Pilipino].[Hapon]

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開発と観光のはざまで…。
ハリボン財団 マキシモ・カラウ氏


Haribon Foundation for the Conservation of Natural Resources



アジアとの交流を促進するために国際交流基金アジアセンターがこの11月に東京に開設された。その記念シンポジウムに招待され「アジア相互理解へのメッセージ−固有文化との対話」と題して講演を行ったハリボン財団のマキシモ・カラウ会長に話を聞いた。 氏はアテネオ・デ・マニラ大学卒業後、ニューヨーク大学で修士号を取得し、ハーバード・ビジネス・スクールの極東アジア協会の上級管理職。 コリラヤ不動産開発社長、リバティ製粉副社長などをへて、現在、環境保護、野生生物の保護、自然資源の持続的利用、 フィリピン先住民族文化の保護を目的とするNGO ハリボン財団の会長を務めている。54歳。


Kumusta ●ハリボン財団のあらましをお聞かせ下さい

「ハリボン財団という名前はHARI( 王様) とIBON(鳥) という国鳥のフィリピン・イーグルからとったんです。もともとはバードウォッチングのグループで外国人なども会員でしたから、そんな名前になりました。1972年に設立された財団ですが、フィリピンでは一番歴史があってもっとも大きい自然保護団体です。当初は生態系の保護や野生水牛のタマラオなど絶滅の危機に瀕している動物を保護する活動をしてきましたが、78年に持続的な開発を目指す運動に変化してきました。

 最近の活動でいえば、海洋環境やサンゴ礁を守るために沿海部の住民のトレーニングなどをしていますが海と森を守ることが大切だと思っています。そして政府の環境政策モニターしたり、環境保護の法律を制定するように政府に働きかけたりしています。またゴミ・ゼロ運動もすすめています」


Kumusta ●開発を急ぐフィリピンと環境保護を求めるハリボン財団は対立しませんか?

「いま、エコツーリズム(環境を考慮にいれた観光開発やり旅行業)という考えが流行していますが、観光というのはもともと自然を楽しむもの。しかしその自然も生態系として考えてみれば、限りあるものなんですね。ボラカイ島を見ればわかるように、(小さな美しい島でも乱開発が行われてしまえば) そこは人口過多となって、生態系はこわされてしまう。素朴で美しかった島なのに、個人が勝手に下水道を作らずにコテージを増やした結果、もう健全で美しい環境を保つことができなくなっています。

 エコツーリズムという考えかたは、その場所の環境や地元固有の文化に配慮して持続可能なツーリズムを促進するものです。目先の利益ばかりを追っていると、すべてを失ってしまうのです。ですから私たちはボラカイ島の過ちを繰り返さないために、パラワン島やほかの島々で海洋保護を行って、小さな島での適正規模の開発をするルール作りをしています。


Kumusta ●固有の文化を尊重するために、どんなことが必要ですか?

「異なった文化の人々と交流するためには言葉だけではなくさまざまな方法があります。情感を伝え、体で表現することも大切です。頭で理解し言葉で話しあうだけではなく、ダンスをしたり料理したりというコミュニケーションが必要です。

フィリピンには多くの固有の文化を持った人々が生活していますが、その人たちをマイノリティとして扱うのではなく、彼らこそがフィリピンの主要な文化なのだということを知る必要があります。そしてもちろん先祖から伝えられた土地を守り、生存する権利を尊重すべきです。

 例えばミンダナオ島にはルマッドという先住民がいますが、彼らにとっては外国の信仰が移入されたときから問題が起こりました。彼らは自然のあらゆるものに精霊が宿ると信じていて、環境を破壊することは彼らの神を破壊することなんです。

 今、私たちがしなければいけないことは、そうした彼らのように自然とどう関わって生きるかという智恵を教えてもらうことです」


Kumusta ●有能なビジネスマンとして活躍され、今はNGOで自然保護を続けていますが、その両立は難しくありませんか。

「私は10年前にビジネスの現役を引退しました。今は財団一本です。ビジネスに飽きたのかもしれません(笑)。それで蓄えを使って、ハリボン財団を設立して、誰からも給料などをもらいません。それだからどんな発言をしても、誰も文句を言えないんです。一生懸命仕事をしてきて、今は恩返しというところですね。 フィリピン北部にこんな諺があるんです。《3頭のカラバオを持っていて、近所の人に分けてあげられればそれは豊かだけれど、100 頭持っていて一人占めにする人はただの欲張りだ》。お金なんて大事なものではありません。一軒の家と一台の車、それが手に入れば、もう要らないじゃありませんか。


Kumusta ●私たちの読者は二つの国の文化の間で生活しています。文化の違いのなかで生きるためのアドバイスはありますか?

「一つの国の文化の価値を理解するだけではなく、相手の国の価値をも同様に尊敬することが大事です。理解しようとするプロセスそのものが新たな価値を生むことになるからです。

 ビジネスマンの読者には、そうですね。投資をするということは人と文化に投資することでもあるということを言いたいですね。それがビジネスをも成功させる道なのです。もし経済だけしか考えないなら、それは相手の人々や文化をおうおうにして破壊してしまいます。フィリピンに投資するなら、どうしたら長続きするのか、どうしたら持続できるのかを考えて、環境と文化の両面でも利益を上げるようにしないとうまくいきません。それが投資をする側にもされる側にもほんとうの意味で利益をもたらすからです」


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