村井 純のコメント
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テーマパビリオン"sensorium"について
by 村井 純
インターネット1996ワールドエクスポジション
日本実行委員長・企画評価部会長
慶応義塾大学環境情報学部・助教授



インターネットは、世界中のコンピュータをネットワークしながら、今日のような人類にとっての知的インフラストラクチャーへと拡張してきました。しかし、それは、この国際社会を構成するそれぞれの国や地域が持つ文化から「ジャンプ」した、完全に独立した環境ではありえません。
 インターネットは、相異なる言語、文化を成熟させてきた各国・各地域の歴史から連続して流れ込んでくるコンテクストに依存しており、そこには現実社会と同じような多様性が存在しています。

 こうした各国の文化的多様性が、インターネットの上でどのように表現されうるかを、日本なりに示そうとした試みが、このテーマパビリオンです。

 テーマパビリオンで掲げたコンセプトは"SENSE"です。実はこれは、今までのコンピュータ・ネットワークの発展の歴史とも密接にリンクしています。
 私がコンピュータ・ネットワークの研究を始めた頃、コンピュータはようやく計算機から人間が使える道具になろうとしていました。それ以来、人々はコンピュータが人間のコミュニケーションを手助けするようなネットワークの在り方を考え、その実現に努めてきました。同時に、デジタル・テクノロジーの発展によって、これまで様々なメディアに分断されていた様々な情報を、一つの信号に統合して処理できるようになりました。いわゆる「マルチメディア」の実現です。

 ネットワークが構築され、マルチメディアの情報が扱えるようになった。言うまでもなく、それは私たち人間が物事を感じ、学び、伝え合うためのものです。
 私は、こうした人間を中心に置いた視点からネットワークを考える際に、視覚だけではなく、聴覚その他すべての感覚(=SENSE)の問題を本格的に捉えていくことが欠かせない、と考えてきました。その意味で、今回エキスポのテーマパビリオンのコンセプトとして"SENSE"が浮上してきたことは、インターネットのこれまでの流れから言っても、非常に意義のある課題を示したことになるでしょう。
 テーマパビリオンでは、今までなかった形で世界を経験するための"SENSE"を共有していく、沢山の興味深い試みがなされることになる筈です。

 また、テーマパビリオンのコンテンツは、これまでインターネットの世界には入り込んでこなかった、様々な専門分野の人々による知見が相互に結び付いて出来上がっていきます。
 これまでのインターネットは、まだまだエンジニアリング系が中心の狭いコミュニティでしたが、ここに来てようやく、テクノロジーの側の人々と、それ以外の豊富な知見を持った分野の人々との調和が始まろうとしているわけです。テーマパビリオンは、そうした意味においても、新しい知的創造の実験の場となることが期待できます。

 例えば、テーマパビリオンのコンセプトを体現する「連感―Linked Senses―」。
 インターネットには世界の膨大な情報が氾濫しています。そこから世界中の人々が情報を共有し、何かの物事を創造する可能性を秘めていますが、こうしたコラボレーション(協創)は明確な目的意識と、人々の洗練された関係性がなくては成立しません。今回、日本の伝統文化である連歌の形式を借りた「連感」が、ネットワーク上でのインターパーソナルな創造のスタイルを提示することは、世界のネットワーク文化に向けての大きなメッセージになりうるもの、と考えております。

 テーマパビリオンは1年間にわたって成長を続けていきます。この中で、どんな新しい"SENSE"が芽生えていくことになるか、その成長ぶりを温かく見守って下されば幸いです。◆


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