【エレン・アールグレン&アン・ホワイト】

Gifts of Love and Comfort

日時  1994年8月9日(火)
会場  フォーラムよこはま  交流ラウンジ
講師  エレン・アールグレン&アン・ホワイト

プロローグ

 1988年5月、ニューハンプシャー州に住むエレン・アールグレンさんが「エイズ にかかった赤ちゃんのうち、約3、000人が、孤児又は親に見捨てられた子どもたち なの で、限られた生涯を病院で過ごす運命にある。」との記事を、目にしたとき、活動は始 まりました。  そして、福岡でも '91年ふくおか女性まつり、 '93年ふくおか女性まつりと回を 重ね、 '94年8月、第10回国際エイズ会議を記念して(財)横浜市女性協会主催で 「フォーラムよこはま」において、ABCキルトの展示とワークショップを開催するこ とができました。各国のエイズ国際会議出席者、地元のキルト好きの人、楽しい交流が 9日間続きました。そして、横浜を始め、各地にABCキルトの会ができています。す でに外国からキルトの要望がきています。
 フォーラムよこはまのワークショップにエレンさんとアンさんをお迎えして、学習会 を開催しました。その時の記録です。

Gifts of Love and Comfort   

エレン・アールグレン

ABCキルトが世界的に広がっていることについて、お話さ せていただきたいと思います。ABCキルトの団体は、非営利でボランティアで行って います。宗教などに無関係な人道的なグループです。皆さんが協力して活動しているグ ループです。活動の目的は、love、愛情を、comfortを贈ることです。comfortというの は2つの意味がありまして、コンフォータブル、なぐさめという意味と、コンフォート 、掛けふとんの意味があります。つまり、こういうcomfortを子供たちに与える。手製 のキルトを、 何千何万という赤ちゃん、あるいは子供たちに配るということです。この子供たちは、 エイズ、HIVに感染して、親に見捨てられてしまって、病院あるいは里親などに出さ れている子供たち、あるいは、薬物、あるいはアルコール中毒にかかっている子供たち です。 ABCキルトの活動はどうして始まったかと言いますと、「エイズ 死ぬ瞬間 」を書いたエリザベス・キュープラロス先生が、アメリカにはエイズになって、病院に 放置されている子供が3000人もいるということをある報告書で語っていたのです。 キュープラロス先生は、死や重い病気で最終的な段階にある患者、そういった苦しみに どうやって対処するか、どうやって立ち直るか、ということの専門の先生です。  こうした見捨てられた赤ちゃんに対して、私は何をしてあげられるのかを考えたので す。どうすればこの子たちをなぐさめてあげられるか。実は私キルト作りが大好きだっ たものですから、この子たちにキルトを作ってあげたらどうかということを思い立った わけです。まず、家族、友人など周りの人に「HIVに感染して病院に放置されてしま っている3000人の子供たちにキルトを作ろうと思うけど、どう思う」と聞きました 。そうしますと、大変多くの方から「協力させてください」と言われたわけです。  まず最初に行なったのは、キルト作りのガイドライン作りでした。今度日本語判(別 添)も作って頂いたので、皆様にぜひお読み頂きたいと思います。どれ位の大きさにす るか、材質はコットンとするか等です。最初のガイドラインを作ってから、実は何回か 改訂しているんです。この活動を始めたのが丁度6年前になります。1988年6月の ことでした。ですから、丁度今年でこの活動も6歳、6周年ということになります。最 初にキルトを配ったのが、マサチューセッツ州ボストンにある市立病院でした。そこに は、対象になる赤ちゃんが6人いました。6に非常に縁のある活動なのです。  キルトを作る人は本当にたくさんいます。おじいちゃん、おばあちゃん、お母さん、 キルトギルドというキルト作りの好きな人たちの集まり、色々な女性団体、ボーイスカ ウト、ガールスカウト、小学1年生から大学生まで幅広くいます。

 活動していると、奇跡と呼びたいようなこともあります。そのうちの1つをご紹介し たいと思うのです。昨年から、刑務所でもABCキルト活動を始めました。コネチカッ ト州には、警備が最も厳重な、すなはち、いわゆる凶悪犯を収容する刑務所が8つあり ます。ここにABCキルト活動を広めていきました。服役者に対して1日キルト活動を してもらう。朝早くから1日中してもらいます。これをビデオにも収めております。こ のビデオを私も見たのですが、ほとんど男性なのですが、皆慣れませんので、緊張の面 持ちで始めます。1日かけて、そしてキルトを完成させます。そして、完成させたもの を広げて見ているのですけれども、本当に嬉しそうにしています。そして、「今までの 人生で、初めて人のために良い事をした」と語っていたそうです。  その内の1人が、クリスマスに外出許可がおりて家に帰りました。3歳のお嬢さんが 、キルトを持っていたのです。キルトには「ABCキルト、製作者のファーストネーム 」が書かれています。そこで、裏返して見てごらんといいますと、その名前が、ご本人 の名前だったのです。どうして、そうなったか分かりませんが、そのお嬢さんがお父さ んの作ったキルトを持っていたという奇跡だったのです。  それでは、アン・ホワイトから、どうしてこのABCキルトの活動が、全米、世界各 国に広まるようになったのか、いってみればその広報活動について、話しをしてもらい たいと思います。

アン・ホワイト

まず私どもの活動が最初に記事になったのが1991年、雑誌に載 りました。どうして日本で活動が知られるようになったのかということですが、辻紀子 さんが、日本からもベビーキルトを贈ったという記事を読まれたということでした。私 どもが紀子さんのことを始めて知ったのは、'91年のクリスマスに、大変素敵なキル トの作品を31点送って頂いた時です。 先程の最初の記事が出てから、1週間の間に350通もの手紙を色々な方から頂きまし た。

ABCキルトというものに対して、非常に多くの方が関心を持っていらっしゃるとい うことが分かりました。それ以来、新聞、雑誌、テレビなどで何回も取上げて頂くこと になりました。そして、私どもの活動に対する反応というのは、いつも大変良い反響を 頂いております。

 アメリカはとても広大で、多くの州がありますから、ニューハンプシャーにあります 小さなオフィスからそういったすべての活動をコントロールすることはとてもできませ ん。そこでどうやって組織化をすればいいか、ということを考えたわけです。各州に少 なくとも1人の代表を置くことを決めました。現在、全米に200名、エリアコーディネ ーターと 呼ばれる人がいます。そして日本にも1人決まりました。このエリアコーディネーター は、各担当地域の活動を統括しています。送って頂いたキルトに針が残っていないか、 頑丈な作りになっているかをチェックします。というのも何度も何度も洗濯することに なるからです。私たちは、品質管理を重視します。それから他に、ゾーンコーディネー ターという人たちが9名います。この人たちは、病院との窓口になる職員の方との連絡 役です。患者さんのプライバシーを守るために、私どもでは病院側に1人窓口をおいて 、その方を介して、キルトを配る、ということをしております。キルトを作った方々が 、直接病院に行って、赤ちゃんにキルトを渡すという体勢ではありません。私どもには 非常に厳しい方針があります。その方針があるからこそ、ゾーンコーディネーターとい うものが必要になります。子供に手渡ししない、というのが大原則です。それでは、配 ることについて、エレンからご説明します

エレン・アールグレン

   どの位配ってきたのかということですが、最初の年に、25 0枚のキルトを病院に配りました。これだけでもたいした成果だと自負していたのです が、6年経ちまして、これまでに15万枚ものキルトを配ることができました。しかし ながら、薬物中毒、あるいはアルコール中毒、エイズに感染している子供たちとニーズ は高まるばかりです。

ところが、大きな問題に直面しました。すなはちキルトを作ったのはいいけれど、受 け取る側の方でこれを否定してしまうことがあったのです。病院の方へこちらから連絡 しますと、病院側で「うちにはHIVに感染している、あるいはエイズの赤ちゃんはい ません」と言われてしまうのです。いったいどうすればいいんだろう、と途方に暮れて おりました。ところがある日、シカゴの小児病院の看護婦さんからお電話を頂きました 。看護婦さんは私どもがキルトを贈っていることを、どこかでお聞きになりまして、「 自分のところ の病院に入院している赤ちゃんにも配ってもらえるだろうか」と電話をかけてきたわけ で す。この電話をいただいたのが金曜日の4時半だったのですけれども、そこの病院では 次の週の火曜日にクリスマスパーティをやるので、それまでにキルトを頂けませんでし ょうか、と言われました。この看護婦さんに「お宅の病院にはHIVに感染している赤 ちゃんは何人入院していますか」と聞いたところ、何と電話の向こうで相手は全く黙り こんでしまいました。これは皆さんも同じ経験をされると思います。そこでこの看護婦 さんに別の聞き方をしまして、「お宅のところにはキルトを必要とする赤ちゃんは何人 いますか」と聞いてみました。そうすると、87人でした。それで、パーティまでにキ ルトを是非お届けしましょうと答えました。電話を受けてから3日しかありません。し かし、実現しました。

 どうしてこのような短期間にキルトが集まったかといいますと、先程アンが説明しま したネットワークを利用したのです。シカゴ周辺の各州のエリアコーディネーターに連 絡しました。それぞれのエリアコーディネーターのところにはキルトがあり、それを集 めて、クリスマスまでに届けることができたわけです。

 次に、こうした赤ちゃんがたくさんいることはわかっていたわけですから、どうした らいいかと思いまして、首都ワシントンに小児病院並びに関連施設の全米協会(NAC RI)というのがあり、そこに連絡しました。このNACRIのスーザンさんという女 性に連絡すると、飛び上がらんばかりにして、歓迎をしてくださいました。「この子供 たちにとって本当に良いことを皆さんはしてらっしゃいます。こちらで協力できること があったら何でもします」と言われました。若干時間はかかったのですが、スーザンさ んは、120に及ぶ小児病院に連絡をとってくれまして、そしてABCキルトについて 紹介をしてくださいました。

 病院側では、是非、ABCキルトを入院している子供たちにも配りたいということに なりました。というわけで、スーザンさんが、閉ざされていたドアを開いてくれました 。そして、各小児病院でABCキルトを受け入れてくださるということがわかりました 。もちろん各州に小児病院というものがあるのですけれども。例えば、フィラデルフィ アの聖クリストファー病院から電話を頂くと、そこに、キルトを届けることができる。 さらにまた、各病院にベビーキルトのコンタクトパーソン、窓口役になっていただく方 を設置しまして、何枚必要なのかというような情報をいただく体勢になっています。こ の匿名性、相手の名前をたずねない、個人的な関係を作らないということは、とくに病 院側にとっては非常に大切なことです。ですから、ABCキルトのメンバーとしては、 あくまでキルトを作って届けるだけ、つまりドアの所までということにしております。  病院側からは、色々とすばらしいお話を聞かせていただいています。ある看護婦さん から伺った話です。ある2歳の男の子が、非常に具合が悪くて、ベッドの中でただ泣き 叫ぶばかりだったのです。看護婦さんたちが、手を変え品を変え、なだめようとしても 泣きやまない。そこにある日、キルトが届いたのです。広げてみますと、その子は泣き 止んで、キルトをつかんで自分の胸に抱きしめました。その男の子はキルトを抱きしめ て寝入ったということです。

 それから、日本に来る直前に、非常にわくわくするような手紙を頂きました。これは ミシガン大学の医学部の研究グループからで、ベビーキルトが赤ちゃんに与える影響に ついての研究をしたいのでキルトを30枚贈って欲しいという協力要請でした。喜んで 協力します。

 若い方や子供たちにも色々と参加してもらっているのですが、私とアンに講演をして くれという申込みがよくあります。こうした若い人たち、子供たちは「キルトづくりは もちろんやるけれど、なぜベビーキルトをつくるのか。なぜ赤ちゃんがエイズにかかる のか?」という質問をたくさん寄せられるのです。アメリカの子供たちは、テレビなど でエイズについては、色々と知っています。ただ、テレビでの情報で混乱している面も あります。 私には5歳になる孫娘がいますが、ある日、テレビで子供番組を見ていた ら、エイズに関するコマーシャルが流れました。この孫娘が、「わたしエイズのことな ら何でも知ってるもん」と言ったのです。母親が「じゃあエイズってなぁに」と聞きま すと、この孫娘は「とってもこわい病気で、これにかかると死んじゃうの」「どうやっ たらエイズにかかるのよ」と聞きますと、「セックスするとかかるのよ」と答えたんで すね。「じゃあセックスて何なの」と聞きますと、「抱いたりキスをすることなの。だ からお母さんからうつっちゃうのよ」と答えたのです。

 これにより、単にキルトを作るだけでなく、教育についても取り組まなくてはならな いことを実感しました。小さな女の子にとって、お母さんが抱いてキスしてくれたら死 ぬというのは、かなり恐ろしい考えだと思います。「いったいどこでそんなこと聞いて 来たの?」と聞きますと「学校で教わったの」と言います。「先生がそういうふうに言 ったの?」と聞くと、「ううん、先生はそんな話しはしないの。」「じゃ誰に聞いたの ?」「外でみんなと遊んでいるときにそういう話しをするの。」

 ですから、世代は変わってもやることはみな同じですね。そして、その経験をベース にして本を書こうと。娘のジャネットと私で「KIDS Making Quilts for KIDS(子供た ちが 、子供たちのためにキルトを作る)」という本を書きました。この本の中ではキルトブ ロックを4つできる簡単なやり方が出ています。この本のうしろの方に、数ページにわ たって、今まで子供たちから出された質問を載せています。質問とそれに対する答えで す。

 学校の先生からも、ABCキルトの活動は本当にいろいろな効果上げているという報 告を受けています。エイズについて、健康について、いろいろなトピックについて学び 、キルトを作ることを通じて、算数の勉強にもなる。エイズの研究報告などにも興味を 持つようになるということで。

 ここまで来るには6年かかりました。まず種をまくということ。それによって問題が あることを知り、意識を高めること。私としては防止、止めること、ということの種ま きだと考えたいと思います。 どこに行っても必ず出る質問は、赤ちゃんが死んでしま った後のキルトはどうなるのですか、というものです。可能性は3つあります。まず、 生まれてからずっと病院で暮らして来たという赤ちゃんの場合、キルトしか赤ちゃんの 持ち物がないのです。そういうときは、看護婦さんが、唯一の持ち物であるキルトを赤 ちゃんと一緒に埋葬していいか、と聞かれますが、もちろん、いいと答えます。あと2 つの可能性はずっと幸せなものです。ひとつはその赤ちゃんの家族のもとに届けられる 。キルトというのは病院の持ち物ではなく、赤ちゃんの、あるいは家族の物であって、 このあと兄弟、姉妹に譲られるということになります。あるいは、洗濯して、また赤ち ゃんに使ってもらう。これが3つめ。

 海外からも本当にすばらしいキルトを送っていただいていますので、それについてア ンから説明します。

アン・ホワイト

特に日本、イギリス、フランス、オーストラリアからキルトを送っ ていただいておりますが、この15万枚というキルトはアメリカだけで配られるのでな く、ロシアに150枚、ルーマニアに1,700枚ボスニアに400枚すでに配ってい ます。 それからルアンダ向けにもすでに送る用意が整っています。

 国際的なプロジェクトになっているということになっています。これは、誰にでも、 何か人のためにできる、貢献ができるという良い例であることだと私は考えています。 すなはち、みんなひとりひとりが役に立てのだと言うことです。

 本日は、日本のABCキルトの会が壁掛け(ビックハート)を皆さんで作っていらっ しゃるということです。これは、エイズを克服するのは、頭と心の両方、意識とハート を一緒にするという事が大切なんだと言う事を示す良い試みだと考えています。すなは ち、誰もが問題があるのだと考え、意識をするということが大切だと思います。  最後のメッセージとして、皆さんの周りの方、お子さんとか、兄弟にアルコールとか 麻薬、エイズの危険性について、是非広めて頂きたいと思います。とくに、薬、アルコ ール、麻薬は新生児にどういった影響を与えているのかという事について、お話をして いって頂きたいと思います。私自身、子供が5人、孫、曾孫もいます。常々思うのは、 心と頭の両方を使っていくと言うことが大切かということです。

 キルト作りは楽しいもので、小さなキルトが小さな赤ちゃんをとっても幸せにするこ とができるのです。  今回の壁掛けキルトは、これは皆さんの頭と心を一緒にしていくとうもので、これは また、横浜市の国際エイズ会議のポスターともなっているビッグハートです。是非皆さ んのご協力して頂きたいと思います。




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