能「翁」の起源はチベットにある?(2)

河口慧海のたてた「とうとうたらりチベット語説」は、翌年に一人のチベット人によって一蹴されてしまったのです。

「そのようなチベット語はない」

これにはお手上げです。爾来、「とうとうたらりチベット語説」はほとんど無視されてきています。

しかも、河口慧海は知らなかったのか、下掛り各流は「とうとう」ではなく「どうどう」と濁って謡います。そうなると河口慧海の説はさらにその根拠を失ってしまうと言われているのです。

しかし、「翁」がチベット語だなんてとても魅力的なので、もうちょっとつっこみたくなります。

実はこの説を知る以前から、日本とチベットとの関係についてはいくつか気になっていたことがありました。

それは、甲骨文や中国の古典に現れる「キ」とか「ドウ」とかと呼ばれている音楽の神様(そして、ときには悪い神様としても扱われる)の存在です。ここではその詳細は省略しますが、どうもこいつはチベットと殷王朝・周王朝、そして日本を結ぶ何かをもっているんじゃないかと思っていたのです。

というわけで、ちょっとわけありで能を休んでいた1987年の夏にチベットに行くことにしたのです。

ともに「キ」や「ボウ」(この漢字、さがします)のもとになる甲骨文字

猿面の神様です。


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