「道成寺」あらすじ

紀州の国(今の和歌山県)道成寺には、長らく鐘がなかった。

今日は、新たに鋳造された鐘を鐘楼に上げ、鐘の供養をする日。

道成寺の僧は、今日は鐘供養の日であることを能力(のうりき)に告げ、またある理由があってこの鐘供養の場は女人禁制なので、女性は一人も入れてはならない旨を告げる。

そこにどこからともなく一人の白拍子が現れる。白拍子とは舞を生業とする女性だ。

「作りし罪も消えぬべし、作りし罪も消えぬべし、鐘の供養に参らん(私の作った罪を消えたでしょう。鐘の供養に参りましょう)」
と静かに現れる白拍子。道成寺に着いた白拍子は、能力(のうりき)に「鐘の供養のために舞を舞わせてください」と頼む。

住僧からは女人禁制と言われているので一度は断った能力も、白拍子の重ねての頼みについに折れて女性である白拍子を道成寺の鐘供養の場に入れてしまう。

白拍子は烏帽子をかぶり、

花の外(ほか)には松ばかり
花の外には松ばかり
暮れ初(そ)めて鐘や響くらん

と乱拍子(らんびょうし)を踏み、舞を舞う。

乱拍子は静かな中にも悽愴を極め、見る者を無限の刻の彼方へ封じ込める。

折しも春の山寺。にわかに空は暗くなり、ぞっとする寒さが天に満ち、入相の鐘に花も散り、寺々の鐘声、鳥たちの声の響くなか、人々は知らぬ間に眠りの中に引き込まれてしまっていた。

この隙をねらって乱拍子は舞を舞いながら鐘に近寄り、鐘を狙って撞(つ)こうとした。が、そのとき白拍子の中で何かがはじけた。鐘に対する恨みか、深く隠し続けてきた思いか、白拍子は鐘に駆け寄り、竜頭(りゅうず)に手をかけた。瞬間、白拍子の体は飛ぶかのように見えたが、彼女は鐘を落としてその中にわが身を隠してしまったのだ。

(中入り。ここまでが前半)

ものすごい地響きがして能力たちは、地震か雷かと驚く。「しかし、音は鐘楼の方でしたようだ」2人の能力たちは、鐘楼に来てみると鐘が落ちていた。鐘は落ちていてだけではなく、熱湯のごとくに熱くなっていた。このとき、この鐘が落ちたのは自分たちが女性を引き入れたからだとなぜかわかった。

このことを住僧に告げると住僧ははじめて女人禁制の理由を物語る。

昔、この里にまなごの庄司という者がいた。彼のもとには熊野詣での山伏が宿を借りに立ち寄ったが、庄司は自分の娘に「この山伏こそお前の夫になるべき人だ」と教えていた。娘はそれを信じ、ある日山伏に「いつまで私を放っておくの?」と迫った。

山伏は思いもかけない娘の言葉に驚き、夜の闇に紛れて逃げ出した。そして、この道成寺に来て、ことの子細を告げ、釣り鐘の中に隠してもらった。

娘はこの山伏を追いかけた。しかし日高川の岸辺にかかったところ、ちょうど川の水かさが増していて、とても渡れる状態ではなかった。娘は川上、川下と必死になって渡れるところを探したが、どこもだめだった。しかし、山伏に会いたさの心は娘の体を一匹の大きな毒蛇に変えた。毒蛇となった娘は日高川を泳ぎ渡って、そしてこの道成寺に着いた。

毒蛇の娘は、寺の中を男を探してさまよい歩いた。しかし、男はどこにもいない。

そのとき娘の目に釣り鐘が鐘楼から下りているのがうつった。蛇体の娘は鐘に這い寄り、鐘の竜頭をその口にくわえ、おのれの体で鐘を七巻きまく。そして、思いをこめてその尾で鐘をたたいた。

すると鐘はたちまちどろどろと溶けて、中にいた男も消え失せてしまったのだ。

この話を聞いた他の僧侶たちも、ともに祈って、鐘を再び鐘楼に上げようと祈りをはじめた。

祈りにつれて鐘はゆらゆらと動きだした。誰も手を触れないのに、鐘はその響きを出し、そしてその動きはだんだんと大きくなり、躍動をはじめたと思うと、ふっと鐘楼に引き上げられてしまった。

しかし、その鐘の下から現れた者は蛇体となったさきほどの白拍子だった。

僧侶たちはなおも祈る。蛇体の吐く息は猛火となって鐘を焼こうとするが、しかしその炎を自分に返り、蛇体のわが身を焼いてしまう。

こらえきれず、蛇体は日高川の深淵に飛び入ってしまった。


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