「安達原」あらすじ(2)


老女の家はさすがに一夜の宿を断るだけのことはある荒れようだ。敷物といえば茅で作った筵(むしろ)だけ。天井からは青白い月の光が漏れていて、老女の顔を怪しく写す。

祐慶は無聊にまかせて家の中を見回してみると見慣れぬものが置いてある。老女にその名を尋ねると

「これは枠(わく)かせ輪と言って、糸を繰る道具です」

と答える。

祐慶の求めに応じて老女は糸繰り唄を謡いながら枠かせ輪を使って糸を繰る。

真麻苧(まそお)の糸を繰り返し
真麻苧の糸を繰り返し
昔を今になさばや

糸の美しさと華やかな昔を、螺旋を思わせる詞章と節づけで謡うその唄は、枠かせ輪の回転とともに祐慶らを王朝絵巻の世界にひきづり込んでいく。

枠かせ輪で糸を手繰れば、いにしえも今に手繰り寄せられる。その枠かせ輪を回しているのは確かに老女に相違ないのだが、しかしその面影にふと光源氏に思われた夕顔の幻影が重なってしまうのだ。するとこの藁屋も夕顔の住まいか。

老女の顔には、若かりし日の艶やかさが戻っている。

幻と現実との交錯する世界に我を忘れていた祐慶は、ドンという音とともに現実の世界に引き戻された。老女が突然、枠かせ輪をあやつるのをやめたのだ。糸繰り唄の余韻の中に老女の忍び泣きの声が聞こえる。祐慶もかける言葉を失い、ただその光景を眺めていた。

しばらくして気を取り直したように老女は、

「夜はあまりに寒うございます。ちょうど家の裏には山があって、薪となる木がたくさんございますので、薪を取って参りましょう」

と言う。この夜更けにまして老女の一人歩きなどと祐慶は止めるが、

「いや、ご心配くださるな」

と老女は言う。

老女は山に出かけるが、ふと思い直したように戻ってきて

「わらわが山にいる間、閨(ねや:寝室)だけは決してのぞかないでくだされ」

と祐慶らに念を押して、再び山に戻っていった。

(中入り:ここまでが前半)

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