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開発者 加藤 俊男 Toshio Kato
工業デザイナー (有)イメージラボテクスト代表。 証明器具の開発・販売を手がける。 カルタシリーズで昭和63年度通産省がGマーク選定商品・部門別大賞受賞。 1947 高知県生まれ
1975 東京造形大学造形学部デザイン科インダストリアルデザイン専攻 卒業
1976 同大学インダストリアルデザイン研究室研究生 修了
1982 株式会社エミックス、川島建設合資会社、有限会社インデクスを経て、有限会社イメージラボテクスト設立
1988 立体抄造法による和紙の照明器具「CARTAシリーズ」通産省Gマーク・家具・インテリア部門別大賞受賞、高知県地場産業大賞受賞
1994 「いの紙のあかり・TECST CARTA」信濃川テクノポリス国際デザインコンペティション'94金賞受賞
現在、高知県文化環境アドバイザー。高知県産業デザイン振興協議会会長。 |  |
| 取材の窓:1996年7月17日。伊野町の仁淀川が大きく蛇行するあたりにポツンと灯るイメージラボテクストの工房を訪ねる。地のもの、自分の原風景にこだわりながら厳しい眼で商品を完成させて行く仕事の一端をかいま見た。田舎に在る工業デザイナーとしての自身の役割を元気に楽しんでいる方である。なければ自分でつくればいいという、Uターン素質に恵まれたことが高知発のヒット商品づくりに結び付いた好例。新シリーズは直販で世界へ巣立つ。
- どうしてこの場所を工房に選んだのですか。
- カルタは基本的に土佐和紙の延長線上にあるもの。素材がまず土佐和紙の楮。土佐和紙は定義付けづらいけど、楮和紙であるのが最大の特徴。カルタは和紙原料のなかでも楮ゆえできる、楮の特徴が活かされた製品の一つです。そして土佐和紙の文化がどっぷりある所は、この伊野、仁淀川の流域。紙に詳しい方も周辺に多い。だから地理的な有利性ですね。
カルタには“いの紙(がみ)のあかり”という副題が付いてますね。
 - 土佐和紙という紙は実際はないわけで、玄人衆には“いの紙”のほうがわかってもらえやすい。今では死語になってるけど、思い入れがあるんです。子供の頃伊野では、ちょっとした猫の額ぐらいの土地にも楮草(かじくさ)が生えていてね。伊野というのは紙で食ってた。仁淀川が産業を育てた。これを読んだら、何だ?紙かなという疑問の渦、ノイズが出て来るわけ。すんなり土佐和紙と言いたくない。
写真「いの紙のあかり・テクストカルタ」
高知で完成品を作るのは難しいと思うのですが、その辺うまくできたというのは。
- 工業デザインという生産行為からすれば、土佐和紙は素材。高知で安全基準とか法的な規制のあるものを最終製品化して出荷するのは難大事です、やって見ればわかるけれども。照明器具に限定すると生産現場の業者が皆無。JISの認可工場が無いから照明器具のベースを高知では作れず、東京や神奈川の工場へOEMで発注する。自分が紙漉きであっても、東京育ちのデザイナーでも立体的な紙はできなかった。要は産地の子なんですよ。Uターンしても受け皿は皆無。だから、自分でやるかという。素材は必ずあるわけですから。
カルタの特徴というと他に無い立体抄造の和紙照明ですが、その辺の意識は。
 - うちは、立体に漉いた紙ですとか、製品の裏側の問題を表に出して商売したいというのは全然ない。見た時に、“あ、これいいな、この光り具合好きだ”と思って頂けるのが本当だと思うので、立体に漉いたから価値があるというのはどうも。
写真 TECST CARTA 新シリーズ
カルタのシリーズ展開も進んでいますね。
- 基本的なコンセプトやアイデンティティーは維持してますが、以前のものと比べて照明器具としては全く違うものになっています。フレームのエッジまで曲面で構成できるので、反射してすみずみまで光が入るし、タイプもブランケット(壁付け)からスタンドなどに拡げたし。
海外への出荷にも「いの紙のあかり」が付いて行くわけですね。
- それは大きいね。機会があるごとに土佐和紙とか伊野紙とかを宣伝してますが。回りにも高知で紙ができるのかという人がいる。紙といえば美濃か越前みたいな話でね。よく日本高度紙工業を引合いに出してる。世界の電解コンデンサ紙の70%は高知から出てると言うと、エレクトロニクス系の技術連中は、えっまさかと。
あそこは高知というのを表に出していない。
- 地場産業というのは中を向いてたらダメなんです。あの会社は、土佐和紙ということにただの一言も触れないで、根底には土佐和紙が流れている。それをどこまでも大事にして突き詰めて、現代において貢献できる商品を作っている。世界中がその紙で恩恵を蒙っているわけでしょう。産業人の本懐です、うらやましいね。
照明に天然素材を使うのは珍しいようですが。
- 和紙素材は、工業デザイナーからは一番距離感のある素材。パルプとなったらまた別ですが。納期の問題あり、品質管理の問題あり、インダストリアルじゃないんです。和紙がプラスティックやガラスと違うのは、透過性が悪い代わりに散光性が高く、光源が見えない。ランプイメージを捉えにくいのは、素材的に非常に有利。光源をできるかぎり感じさせない照明器具は、ある意味では究極の素材です。
和紙の明かりというとイサムノグチが有名ですね。
- 開発する時には提灯は全然意識しなかった。でも最初あの岐阜提灯で照明器具を作るために試作の紙を漉いたのどこか知ってる?高知よ。ものすごい良い紙で商業ベースに乗らない。岐阜で供給しやすくアレンジして、あれだけの商品に成長した。
高知の紙漉きさんの技術力への業界の評価があって、一方に加藤さんのような完成品を作る方向性がある。これは高知で両立していくでしょうか。
- 本来カルタは製紙業者がやるべき仕事と考えていた。デザイナーとして、製紙業者との共同作業で事業化を図ったけど、照明器具は建築に付随するもので、納期と一定の品質保証が当然のルール。だから経験がないと、組織化とか事業としての取組みが難しい。照明メーカーのカタログに載った時点で、こちらは安定供給の保証義務がある。製紙業者ができないとなったら、言い出しっぺの開発者である自分の仕事になる。
その時点で放り出すことは考えなかったのですか。
 - 公的機関の補助をいただいてスタートしたものでもあったし。そして、これだけは理解・評価してもらいたいというものを自分が持ってれば、自ずと途中では捨てられない。価値観のスケールがその時点で決まるから。放っておけばカタログからも落ちるさで終わらすのか、だったら俺が作ってやるという形か、迷ったけど自分で言い出したものだから。それでここに拠点を持つことに。
もう一つの局面として、紙漉きさん個人個人の技術評価以外のフィールドでの可能性は、僕達デザイナーの立場の人間が押出して行くべきだと思ってる。地元の素材の良さを見出して100%引き出す商品づくりは大事なこと。それが実践できるのは、デザイナーとして幸せなことだと思ったから。
写真 高知県立美術館のCARTA
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