本年度大賞作品
鯉江 康弘(10歳)
夏休みも半分ほど過ぎた、三十七度を超えるめっちゃ、暑い日の午後、ぼくは、
庭で、すごい戦いを見た。
アブラゼミのはらに、カマキリが食いついている。アブラゼミは、ひっくり返っ
てはいるが、カマキリから逃れようと、必死になって羽をばたつかせていた。で
も、カマキリは、絶対に放すまいと、しっかりとアブラゼミをかまでおさえ、口
を動かしている。
こういう場合、悪役は、当然カマキリのほうで、アブラゼミは、かわいそうな
ぎせい者だ。心やさしいぼくとしては、すぐにでも、カマキリからアブラゼミを
救い出してやるところなんだけど・・・。この場合は、ちょっとちがっていた。
それは、カマキリが、とっても小ちゃかったからだ。アブラゼミと体長は同じぐ
らいだったけど、太さは、五分の一くらいだ。だから、アブラゼミがあばれると、
カマキリも大きくゆれる。それでも、ふり落とされまいと必死になってしがみつ
いているカマキリの姿は、感動もんだった。
ぼくは、カマキリが、どうやってこの大きなアブラゼミをつかまえたのか不思
議だった。アブラゼミが、死にかけて地面に落ちたところをつかまえたのだろう
か。でも、それにしては、アブラゼミが元気すぎる。
こんな小ちゃなカマキリが、えものをつかまえるのは、大変なことにちがいな
い。だから、カマキリは、このアブラゼミに逃げられたら、またいつえものがつ
かまえられるかわからないだろう。カマキリにとっても、生死をかけた、大切な
戦いなのだ。
十五分くらいたっただろうか。この戦いに新たな第三者が加わった。小さな、
小さなアリが、アブラゼミとカマキリの両方に、よじ登りはじめたのだ。どこか
ら来るのか、アリは、だんだん数を増していった。この突然のアリの攻げきに、
カマキリは、さぞ面くらったことだろう。攻めと、守りを同時にしなくてはなら
なくなったのだから。
カマキリは、片方のかまで、アブラゼミをしっかりとつかみ、もう片方のかま
で、アリをはらいのけようとする。でも、アリも、負けてはいない。どんなにカ
マキリが、かまを振り回しても、絶対に落ちないで、しっかりとカマキリにつか
まってはなれない。
この戦いから降りたのは、カマキリだった。カマキリは、自分自身の命の危険
を感じたのか、あれほどがんばってつかまえていたアブラゼミをとうとう放した。
そして、アリをはらい落としながら、草むらの中へ、逃げていった。カマキリに
放されたアブラゼミは、さんざんカマキリに食いつかれて、力が弱っていたのだ
ろう。もう、飛ぶ力は、残っていなかった。アブラゼミには、アリが黒山のよう
にたかった。しばらくすると、アブラゼミは、動かなくなってしまった。最後に
勝ったのは、アリだった。虫の世界の戦いのものすごさを見たぼくは、しばらく
暑さを感じなかった。
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