Interview


観客との交歓
〜舞台はやっぱり楽しい〜







汪遵熹・・・・・舞台演出家
石川郁・・・インタビュアー





(王府井児童劇場 中央実験話劇院「FA ZIDU」公演 舞台裏にて)

石川:この劇のだいたいのストーリーはどういうものですか?

:これは古代中国の一つの物語を下敷きにしています。 春秋戦国時代の「東周列国誌」という作品の中に「鄭」という国が出てくる。その国は諸候国家だったのだが、王様が突然死んでしまう。王が死にかけている時、周王が、一人のとても美しい女性を王に使わす。鄭王も彼女が来るなら、自分は回復してやると思う、死ぬものかってね。 しかし、王の死後、その美しい一人の女性と王位が残された。一体誰が王位と彼女を手に入れるのか・・・。 鄭の王の親族には、まず王の兄弟、二人の息子、そして王の前妻の兄弟がいて、彼等が王位と彼女を巡って争いを始める。それで、彼女も誰と結婚するかを選ぶことにする。もし彼女が結婚する男が鄭の国王になれば、彼女もずっと王宮にいれるわけだからね。ただ、問題なのは彼女が王にふさわしい男を見つけることができるかってことなんだ。 その"ルーイー"の役を李媛媛が演じてくれています。

石川:その物語って全部歴史上のできごとなんですか?

:鄭っていう国は歴史上存在しているし、登場人物の名前も本物です。ただ、物語の内容は変えた。もともと京劇の中に<Fa Zidu>という題名のものがあって、私たちはその名前を使うことにした。

石川:でも、京劇の中の<Fa Zidu>の内容とはまったく違いますよね。

:まったく違います。 京劇の<Fa Zidu>は、王位を争って"KaoShu"を射殺し、その後の心中の苦しみや恐怖を描いた武術もので、舞台の上で宙返りなんかもする。 私たちはそれを歴史喜劇に変えた。それに処理のしかたが少し現代的なんです。だから最近の観客の審美眼や感受性を考えて、服装はもちろん、劇全体の感情表現から人間関係に至るまで、全部合理的に創り直すことになったのです。

石川:それでは、今回の劇の主題で表現したいことは何ですか?

:私たちが表現したい事というのは、人と人との関係です。 物語の中のみんなが、心の中にひとつの考えをもっていて、みんなが権力と美しい女と財産を手に入れたがる。でも権力には際限がない。何かを手に入れた時に何かをなくす。ほんの一部分を手に入れただけでも、やっぱり新しい痛みが生まれる。人としての自尊心を失うことにもなる。 こんな意味を含んだ物語にしたいと考えました。

石川:そうですか。それで、劇の内容全部を現代にあてはめたのですね。

:そう。だから今の人、特に若い人たちはとっても喜んでくれています。 もともと遥か昔の物語なのに若者に受け入れられる。それは彼らに重点をおいて創ったからです。

石川:悲劇でありながら喜劇でもあるという二通りの味わいがあるわけですか。

:そうです。ひとつの悲しい物語を私たちは喜劇的に創り変えました。 劇場の中は観客の笑いにつつまれながら進行しているのだけど、笑いながら、たぶん彼らは自分の周り、自分自身のいろいろな事を思い出しているのでしょうね。

石川:では、すべてが創造で、まったく新しいものと言ってもいいですか?

:私たちは歴史物語の名前を借りただけ。 "ルーイー"という、私たちの創った人物以外、他の個有名詞は全部本物だけれど、彼らの関係や出来事はすべて変えたのです。

石川:具体的な時代は特に出て来ませんよね。 それに設定は、今の中国の政治体制とも違うし、普遍性のある作品ですね。

:この劇では、政治色はいっさい出していません。 人間だけです。人と人との関わり合い。その方が、今の人たちはもっと共鳴してくれるとおもうからです。当然、これは中国の土壌から生まれたものだから、中国の観客はより深く感動してくれるだろうし、感想も、より豊富だと思います。

石川:明日が最終日ですよね。観客の反応はどうですか?

:やっぱり喜んでくれていますね。 今回は二度目の公演で、一回目は30公演以上した。さらに追加公演を求める声が多くって、二度目はもう10公演増やしたんです。 観客の反応も、チケットの販売状況も好調ですね。

石川:今回の演出は成功と言えますね。

:ありがとう。

石川:そうですか。汪さんのような舞台演出家は、常に新しいものを創っていこうとしますよね。

:劇団の演出家が劇の目的を考える時は、特色のある、特別な題目を探すものです。

石川:今回の役者さんたちについてはどうですか?

:みんなすばらしく良かったですよ。みんな優秀な役者さん達で、主役は、上海戯曲学院出身の、舞台やテレビなんかでよく知られている、売れっ子だよ。

石川:それでは、今回の過程で不満や頭の痛いことはなかったですか?

:当然、製作費用はとても高い。もともとすごく景気が良かったわけではないし・・・ 役者たちは資金捻出のためにずいぶん多くの契約を結んだんだ。この劇を成功させるために、彼らは多くの映画会社やテレビ局と契約を結ばなければならなかった。そうやって、みんなでこの劇を成功させたのです。

石川:だいたいどれくらいの時間がかかりましたか?

:練習で約2ケ月ですね。

石川:俳優さん達にとって演劇とは? 例えば、映画やテレビと比べるとどうなんでしょう?

:彼らにとっては、当然舞台での公演こそ全てだというべきでしょう。 演劇の役者たちは、舞台に立つためにすごく長い時間をかけなければならない。演劇は公演を何回も重ねるけど、テレビドラマは一回見たらそれで終わり。何回も繰り返すわけですから、投入するエネルギーだって大変なものだ。もし失敗したらその影響は大きい。テレビや映画なんかの比じゃないですね。 当然、役者たちだってそんな演劇が大好きなんです。彼らにとっては映画やテレビに対する挑戦でもあるからね。毎日観客と一緒にいて、彼らの笑い声を聞き、彼らに受け入れられる。これは映画やテレビでは得ることのできない喜びにちがいない。 今回の役者たちは、この劇でそれを十分味わったでしょうね。

石川:汪さんはいろいろな劇団で現代劇の演出をなさってますが、なぜですか?

:私は現代劇を専門に学んでる演出家ってわけではない。今回は特別に招かれたのです。演出を通して交流を深めたいのです。だから青年芸術劇院でもやるし、実験話劇院でもやるし、地方でもやります。青芸でやった時は、世間の反応がどうか探ってみたかったためですね。それに今回のもそうですね。 私は挑戦的な演劇をやるのが好きなんですよ。 ただ今回みたいに全く新しい実験的な演劇というのは初めてですね。

石川:脚本についてはどうですか?

:脚本には私も参加しました。ただ作者は一人ですが。

石川:じゃあシナリオにも参加したんですか?

:うん、シナリオは僕を含む3人の人間で創りました。 僕たちは一つの悲劇を喜劇にするために、考え抜いた末に、脚本から始めて、ようやくこういう新しい題材の喜劇ができあがったのです。 とにかく僕にとって喜劇というのは、演出家と役者の一種の戦だからね。

石川:わかりました。では、今後のご活躍を期待しています。

翻訳:五島直子





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