Interview


過激な実験空間
・・・小劇場に時代を映す・・・


孟京輝・・・・・舞台演出家
石川郁・・・インタビュアー



(中央実験話劇院小劇場 「思凡」公演 舞台裏にて)

:日本に行ったとき、いくつか小劇場を見たよ。実験的で時代をリードしてる感じだね。今では北京にもいくつかのタイプの小劇場が出来てる。一つは新しいことをどんどんやろうっていう、牟森やうちみたいな、実験的で前衛的なのね。もう一つは大劇場を縮小して持ってきたみたいなやつね。

石川:そういうやり方っていうのは、経済的理由が大きいのかしら?

:それもある。でも、小劇場は出来て日が浅いでしょ。みんな小劇場ってのは関係者も少なくてすむし規模も小さいから簡単、そうすると運営だとか余計なことにわずらわされず舞台作りにより精力を投入できるってそう思ってる。でも今年のいくつかの作品を見ると、面白いのは、仁造華演出の『奇人』、メタルだとか色んな効果を工夫して視覚効果を上げてて、非常に面白かった。あと『三人の女』、『屋根(屋上)』なんかは比較的シンプルだけど、原作に変化をつけてる。でも全体的には、ここ数年、小劇場運動は停滞状態に等しいね。発展もなければいい作品も出てこない。みんな簡単なものだ。唯一、牟森らが日本の俳優何人かと共演してやった芝居は観念や思想の面でも、スタイルの面でも、まあ面白かった。でも他は押し並べて、どうにかこうにかここまでやってきたけど、もう一歩も進めなくなってる。劇作家も僕みたいな演出家も俳優も、意識が保守的でね。

石川:小劇場運動が行き詰まっている最大の原因はどこにあるとお考えですか?

:たぶん今の社会全体のコマーシャリズムともある程度関係するだろうね。もう一つ大きな問題は、僕たち製作者自身が、訴えたいことと、それをどう表現するかっていう方法手段をよくわかってない。みんな保守的で、現状を打開する一歩が踏み出せないんだな。

石川:テーマはどうなんでしょう?

:テーマも見つからない。日本に行ったとき、新宿梁山泊の人たちと話したけど、すごく面白かった。彼らは政治社会に対しても一家言あるし、周囲の生活だとか、知識分子だとか、とにかく身の周りのあらゆることに見識がある。彼らはそれを表現する。ところが、今の社会は複雑で思うようにいかない……。社会の体制や状況とも関係するよね。

石川:実際、中国人の言いたいことって、日本人より多いですよね。中国の小劇場に見に行きはじめた頃そう感じました。でも、どうもその後の発展が今一つ……。

:言いたいことはたくさんあるんだけど、何を言えばいいのかはっきりわかってない。これは一つには僕たち製作者が、方法面でも形式面でも内容面でも今一歩ってことだね。

石川:それはご自分も含めてですか?

:そう、僕も含めてね。でも僕はこういう問題に気がついて、色々言ってるつもりだよ。

石川:小劇場ってどういう場なんでしょう?

:僕の見方は彼らとはちょっと違うんだ。やつらは小劇場は小さい空間だとか思ってる。僕はあれは小型の実験場だと思う。すごく大胆なことをやったって構わない。それが思想的なことだってさ、奇抜だって過激だって、前衛的だっていいんだ。お客さんも少ないしね。

石川:でも中国では前衛的なものは難しいですよね、色々取り締まりだとか制限や障害があって。

:でもそういう困難は克服しなくちゃ。でなきゃ小劇場の意義はなくなっちゃうでしょ。大々的に宣伝して大きな劇場で上演できるなら、何も小劇場でやることないじゃない。小劇場には小劇場の利点があるんだ。つまり、たくさんの道具は必要ない。例えばさ、画家は家で絵を描いてれば人の助けはいらないでしょ。でも僕は芝居の演出家だから、自分を表現するためには、多くの人と協力しなくちゃいけない。大劇場だと人も物も金も、何しろ面倒すぎる。小さめのとこならさ、前衛的に作っても過激にやっても、ちょっと支離滅裂にしたっていいからね。

石川:三年前の『思凡』の頃と比べると、当時の力強さや創造性が今はどうも……?

:そうそう、あれは強烈だったね。若者の何もかもつき破るような青春のエネルギーがあった。それに、あそこには悲劇と喜劇の間に掛け橋があった。つまり己のエネルギー溢れる身体ね。でも今は技術的には成熟してるからね、舞台効果も力任せの当時よりよくなってるよ。三年経って欠けてきたのは、実は役者の目の輝きだよ。これはどうしようもない。みんな年取ったんだね。

石川:上海の小劇場もうまくいってないところが多いようですよね。小劇場はやはり北京が少し進んでいる気がしますけれど?

:そうだね。でもまだ組織がないでしょ。互いに助け合ったり、学びあったりしなくちゃ、順調な進歩は望めないよね。でも僕はあと二、三年のうちに舞台作りの力も観客もスタンバイできて、よくなるような気がしている。

石川:ということは、今何か新しいものを作り出すのはちょっと難しいということかしら?

:そうだね。どっちに向かって進めばいいのかわからない。ときには元の地点に戻ってきちゃってるなんて状況だ。そういうことが多い。

石川:でももう少し経ったら飛躍が起きると信じていらっしゃるのね。

:そう。ただしそのために最も大切なのは、演出家、役者、そして劇作家自身だ。この社会生活や今という時代に敏感であればさ、頭を使って、成功に向かって向上していける。「うん、お客さんも入ってるし、なかなかうまくいってる」なんて現状に満足してたら、進歩できるはずない。一番大事なのは自分なんだ。たとえどんなに困難だって、例えばお客さんが入らないとか、お金がないとか、あれもダメこれもダメって制約が多くたってさ、そんなの問題じゃない。数年前中央戯劇学院の大学院生だった頃も、89年の六四事件以降も、僕たちは一銭のお金もなかった。でも表現したい。まったく問題なかった。舞台は全部新聞紙で作ったんだ。一番大事なのはお金じゃない、物でもない、たぶん心、これが一番大事なんだ。

石川:小劇場は大劇場と比べて色々な利点があるけれど、そうはいっても観客も大事ですよね。孟さんはどういう層を観客対象にしていらっしゃるのかしら。観客と舞台の関係をどうご覧になりますか?

:観客は育てなくちゃいけない。観客に付き従ったら、行けば行くほど後退する。観客はまず育ててそして友達にならなくちゃならない。時には観客と対立したっていい、自分と対立するみたいにね。これは友達になって交流する一つの方法なんだ。

石川:私も若いときに小劇場の活動に参加したことがあるんですが、小劇場っていうのは舞台と観客との距離が近いから、観客の参加があるというか、気持ちが直接通じ合うような交流がありますよね。

:それもとても重要だね。

石川:でも中国の小劇場は、今のところそういう点がやや物足りないといいますか……。

:僕たちもそういう試みはずいぶんやったけど、成功しなかったんだ。

石川:観客がそこまで成熟していないと……?

:観客も製作側も両方だね。例えば数カ月前に日本から大阪の劇団が来たとき、あの観客との交流は非常によかったね。

石川:それなら、中国でだってできるっていうことじゃないかしら。 :そう。できるんだ。ただ今のところ今一歩だね。

石川:今後も芝居の前衛性を追究し続けていかれるんですか?

:そのつもりだ。己の精神との共同作業であって、非常に面白くかつ大事だと思っているからね。

石川:今、もっとも興味のあること、表現したいと思ってらっしゃることはどんな方面のことですか?

:中国の若者の反抗精神かな。何かを突き破ろうとするあの――。こういうことに関心があるっていうのは僕の年齢とも関係あるのかもしれないね。

石川:改革解放政策施行以来十数年、北京や上海の経済はどんどんよくなって、若い人の観念は六四事件の頃ともまた違ってきていますよね。おっしゃるような何かを突き破ろうとする精神は少し薄れているといいますか……。

:その通りなんだ。だけど、そういう状況の中でこそ、僕が描きたいのは、みんな本当の反抗精神がないってことなんだ。反抗精神っていうのは現代社会の中で非常に重要だと思うからね。僕は観客と交流したいと思っている。君はこうやって生きている。それは君自身が望んでそうしてるのかい? 君はそれで満足しているのかい? ってね。僕はこういう問題をみんなと一緒に考えたいと思ってるんだ。そのほうが面白いだろう?

石川:2、3年前、北京には4つか5つ割と独立した劇団がありましたよね。彼らは今どうしているのかしら? みんな解散みたいな状態なのかしら?

:解散はしないにしてもバラバラだね。例えば王暁鷹は今「火狐狸」っていう劇団をもっている。僕らの劇団はもともと「穿幇劇団」といってね、解散じゃなくて、新たによりよく芸術性を追究できる劇団に作りかえようと思ってるんだ。

石川:今年のご予定は?

:秋に『阿Q同志』っていう芝居をやる、あの魯迅の小説のね。ずっと温めてきた芝居でね。僕は阿Qを農民じゃなくて知識分子に仕立てて、舞台に乗せようと思ってるんだ。

石川:新たな青年像を造り出すんですね。ご成功をお祈りします。 ところで、芝居の国際交流についてなんですが、中国の芝居を日本で、日本の芝居を中国でという交流もありますけど、それはすでに出来上がっている舞台のやりとりに過ぎませんよね。例えば日本の演出家を連れてきて中国の俳優を使って、ワークショップなんかで製作過程の交流をするというようなことに興味はおありですか?

孟:それはとても意義のあることだね。眸深はこの前日本の俳優を使ってまず日本で上演し、中国でも上演した。こういうやり方はこれから増えていくだろうね。演出家として、非常に面白いと思うね。まったく未知の挑戦だからね。

石川:ワークショップに非常に面白い方法ですが、でも色々な問題があるみたいですね。

:でも、出てきた問題っていうのはよく考える価値のあることだよ。最終的に得られた効果を分析すると色々なことが学べる。非常に有意義な結論が得られるはずだ。今回香港でシェークスピアの『十二夜』を撮ったんだ。一人で行って、向こうの俳優と共同製作したんだ。いやあ、色んな問題にぶつかったね。でも最後はうまくいった。あとから色々考えた。創作上の問題じゃなくて、僕自身の問題をね。自分の長所、短所、どういうところで人とぶつかったり、誤解が生じたりするか、なんてことも含めてね。

石川:もし日本の劇団があなたをお招きして共同製作するというような機会があったら、参加なさいますか?

:もちろんだよ。絶対面白いからね。僕は以前、日本の芝居を知らなかったんだ。商業化社会だから芝居はないんじゃないかなんて思ってた。でも日本に行って、小劇場の実験的な芝居を色々見て、ぶったまげた。日本の芝居には、僕らが学ばなくちゃいけないことがたくさんある。

石川:これからもお互い頑張りましょう。

翻訳:中西文紀子





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