実質生活としての京都
Introduction





都は1200年以上の歴史を持つ古い都市です。8世紀末の造営以来、基本的な都市区画がほとんど改変されることなく現在まで継承されている、世界的に見ても極めてユニークな都市だと言えます。確かに、京都は東京のような膨張的に発展する場所ではありません。しかし、京都が古代から中世の終わりまで日本の首都であり、その機能を実際に果たしてきたことは事実です。その期間は実に900年に及びます。首都の宿命として幾度も戦乱の中心になったにもかかわらず、京都はけっして廃れることはありませんでした。しかもこの都市の生命力は現在においても連綿と息づいています。 東京の首都機能がわずか150年で限界をむかえた今、それにかわる都市の概念を私達はいまだ打ち出せずにいます。しかし京都はその8倍もの歴史を見事に蓄積し、それを保ったまま現在に至っています。この理由は複雑で、明快な回答をもって性急に断言するべきものではないと思われます。ただ私達に言えるのは、京都という1200年の時空を蓄積し熟成させたに都市の生活そのものにアクセスすることで、現在と未来に対する「何か」が見えてくるのではないかということです。その素材を、京都は無限に含んでいると私達は考えています。

京都という都市が1200年の歴史を持ち、世界文化遺産の宝庫であることは周知の事実です。しかし、京都はそれだけの都市ではありません。そこには今でも大勢の人々が普通の暮らしを営んでいます。そこに住まう人々の素顔や京都での「住まい方」を捉えることは、時代や文化を超えて京都を見る視点であるといえます。京都の実質的な生活を、私たちは京都在住の様々な人々の住まいを通して考察しようと思いました。 今では少なくなった大家族、一人暮らしの学生や社会人、京都独特の町屋を守り住んでいる人々、そして老人たちの住まい、外国人たちの京都での住まい方など、そこには今の京都を実際に生活する多彩な人々の姿が息づいています。そこには家族制度を幻想とする住まいとは、異質で新鮮な「住まい」が現れてきます。一人暮しの老人も、ゲイやレズビアンの同居生活も現代の家族であり住まいなのではないでしょうか。私たちは今、京都に住まう様々な人々を取材中です。そのカテゴリーは家族、一人暮し、学生、老人、同性愛、外国人など様々です。今回はまず、京都造形芸術大学の女子学生の部屋をご案内します。
QTVR(QuickTime Virtual Reality)という新しい画像表現を用いて、学生たちの部屋を訪ねてみて下さい。そこには、彼らの独自の住まい方が息づいています。 Virtual Kyoto Style学生版は、決して京都の仮の生活ではなく、今を生き、歴史や文化との新鮮な出会いを通過している20代の学生の新鮮な生活なのです。彼らの眼に写る京都、彼らが感じ取る京都の歴史や文化とは、決して観光ガイドに載っている京都のステレオタイプではありません。
京都という世界文化のブラックホールに「住まう」こと、それは魔界や異界となった歴史物語に接近するだけでなく、過去と未来、時間と空間を併せ持つ「間界」に住むことの愉楽だとも言えます。
私たち京都造形芸術大学メディア美学研究センターでは、京都の伝統文化とデジタル・マルチメディア技術とを有機的に統合する「デジタル・ジャパネスク」プロジェクトの中に、Virtual Kyoto Style(実質京都生活)というQTVRプロジェクトを位置づけました。「京都を住まう」ことの小さな冒険を記録し、世界中のWebが織り成すInterzoneに彼らの部屋が移植されるのです。

武邑光裕 
京都造形芸術大学 
メディア美学研究センター所長