餓鬼道/来世で鬼となる

人間(にんかん:人のいるところ)に行きて、鬼道の中に在り。
                      『正法念処経』

人間が輪廻転生をくり返すという仏教の六道(天・人・修羅・畜生・餓鬼・地獄)は 、須弥山を中心にした、とてつもなく広大な世界である。前世で人一倍、物欲や食欲 が強く、欲望を満足させるためにひたすら行動し、自分の欲望が満たされないと妬ん だり恨んだりした人間が死後、この餓鬼道に落ちるという。ここでは、「決して欲望 が満たされない」という罰が待ちうけているのである。とどまる心を知らぬ欲望が、 狂おしいほどの飢えを呼び、日夜、苦しめられるのである。 餓鬼は栄養失調で手足や喉が細く、腹が蜘蛛のようにふくれた気味の悪い存在である が、人間に悪事を働くほどの力はないという。

・伺便餓鬼(しべんがき)
前世において、貪欲で布施を行わず不浄の食物を僧に与えた者が この餓鬼となる。人間のそばにて糞尿を食いあさるという。


・疾行餓鬼(しっこうがき)
前世において、僧でありながら、戒を破り、貧者に与えるべき食物を取り、みずから 食した者がこの餓鬼となる。 つねに墓場を歩きまわり、好んで死屍に近づくという。


・食糞餓鬼(じきふんがき)
前世において、貪欲で物惜しみが強く、布施などはいっさいせず、加えて、僧に不浄 の食物を与えた者がこの餓鬼となる。
糞尿の池に入って、つねに糞を手ですくいながら食べるという。

・曠野餓鬼(こうやがき)
前世において、旅行者を苦しめ、財物を奪ったものがこの餓鬼となる。つねに鷹の鋭 い嘴、強い爪が餓鬼の肉を裂ききるという。


・食火炭餓鬼(じきかたんがき)
前世において、典獄として衆生を打縛し、飢渇されたもがこの餓鬼となる。つねに墓 に行き、屍を焼く火を食うという。


・食吐餓鬼(じきとがき)
前世において、妻子のために食物を与えず、みずからは朝夕美味を食べたものがこの 餓鬼となる。常に嘔吐を強いられ、飢渇の苦しみから逃れることができないという。


地獄の鬼

そのかたち身は八十九尺(約三メートル)ばかりにて 髪は夜叉の如し、身の色赤黒く眼まろくして猿の眼のごとし 『古今著聞集』

前世で最も罪の重かった者が死後、この世界に落ちるという。 ここでは、地獄の獄卒である『鬼』から終わることのない責め苦を受けることになる。