1986年、エチオピアのオルドヴァイ渓谷で、約180万年前の腕と上顎の骨が発見されたの。発見者はわたしの場合と同じく、ドナルド・ジョハンスンのチーム。だから時代は百数十万年へだたっているけど、「ルーシーの娘」とも呼ばれているわ。その話しをするわね。
正式には標本番号H62と、そっけなく呼ばれているこの骨は、より人間に近いホモ・ハビリス(能力あるヒトの意味)のものなの。 特長は1mたらずの身長、長い腕、大きな脳容量。古人類学者は、この骨を見てびっくりしたのよ。だって、この時代からたった20万年くだった160万年前のホモ・エレクトゥスの身長は、大きさもプロポーションも現代のヒトと大きく違っていないのに、この骨があまりにも類人猿的な特長を濃く残していたからなの。つまり身長の低さ、腕の長さは350万年前のわたしと、そうたいして変わっていなかった。ただし脳容量だけは大きくなり、歯も退化していることがわかったのね。

この「ルーシーの娘」は、人類進化の大まかなデザインを学者さんたちに教えたわ。それは、アウストラロピテクスが直立二足歩行をはじめてからも、脳はそれほど大きく発達しなかったこと。しかし石器などを使うホモ・ハビリス段階になると、類人猿的な身体の特長は残したまま脳が急速に発達したこと。そしてさらにホモ・ハビリスからホモ・エレクトゥス段階に入って身体の特長が、現代のヒトと同じようになったこと。

さて、「ルーシー」と「ルーシーの娘」の関係は、じつはハッキリしていないの。アウストラロピテクスは絶滅していて、ホモ・ハビリスの祖先ではないという説もあるし、いや祖先だという説もある。でも、これだけは言えるわ。「ルーシーの娘」つまりホモ・ハビリスは、まちがいなく人類の祖先よ。ここに掲げた系統樹は、ヒト属がホモ・ハビリスからまっすぐにホモ・サピエンスにつながっているけれど、それ以外の部分、つまりアウストラロピテクスとの関係、ホモ・サピエンス・ネアンデルターレンシスとの関係は、まだ謎に包まれているのよ。

ところでね、いまお話ししているのはすべてアフリカでのことだけれど、最近またわたしよりももっと古い化石が発見されたの。アフリカってすばらしいタイムカプセルね。