bogomil's CD collection
12
ヴィエルヌ:6つのオルガン交響曲
クラシックはむづしい?
Vierne: 6 Symphonie pour orgue
一般にクラシック音楽は他のジャンルの音楽に比べて、「とっつきにくい」、「むづかしい」とみなされがち。しかし、本当にそうなのだろうか。
日頃、クラシックにはなじみのないサラリーマンAさんの場合を考えてみよう。Aさんは、たとえばレストランでBGMで流れているショパンのノクターンを聴いて、「クラシックはむづかしい」などとはいわない。適当に聴き流して、ことさら話題にのせることもない。ここだけの話、Aさんはリチャード・クレイダーマンとショパンの区別もつかないのである。
では、Aさんはどんな場合に「クラシックはむづかしい」というのだろうか。それはたとえば友人が合唱に出演するからといって、義理で買わされたチケット片手に、年末の忙しい時に、ベートーヴェンの「第九」を聴きにいったようなとき。こんなとき、Aさんは半分ため息まじりに「クラシックはむづかしいですねえ」とつぶやくのだ。
この種の「むづかしい」という発言は、クラシックに限らず、多くの場合、何かを敬遠するために用いられるのであり、その真意は「退屈だ」、「おもしろくない」ということ。明治以降、欧米崇拝に凝り固まっている日本では、クラシック=西洋芸術音楽は高尚なもの、すばらしいものとされてきたから、ストレートに「退屈だ」とか「つまらない」とはいいにくい。まして、第九の4楽章を「わけがわからないバカ騒ぎ」などといおうものなら、「貴様は楽聖ベートーヴェンの作品を侮辱するのか!」と怒られそうな雰囲気がある。だからといって、口先だけ「さすがに第九はすばらしい、ベートーヴェンの偉大な精神が見事に結実している!」などと心にもないことをいえない正直なAさん、苦肉の策で「むづかしいですねえ」というしかないわけだ。
これは、お見合いやプロポーズの断りの文句に似ていなくもない。「ご立派過ぎて…」とか「あなたには、私などより、もっとふさわしい方がおいでになると思いますので…」とかなんとか。「オマエなんかと結婚できるか、このタコ」というホンネはまずいわないものである。
例外はあるだろうが、ほとんどの場合「クラシックはむづかしい」という人は、「クラシックが嫌い」あるいは「クラシックはおもしろくない」のである。だから、このホンネを理解せずに「じゃあ、むづかしくなければいいんでしょう?」などというのはピントはずれ。ところが世の中にはこのような余計なお世話が結構ある。いわゆる「クラシック音楽入門」といった類いの書籍やCDブック。誰が、演歌を聴くときに「まずは、わかりやすい美空ひばりの代表作から鑑賞するとよいでしょう…」などと書いてある「入門書」を読むだろうか。入門書を出すこと自体が「クラシックはむづかしいもの。ふつうの人にはわからない。だから、入門書で勉強しなさい」と敷居を高くしてしまうことにもなりかねない。
もちろん、かくいう筆者も、レコード付きの音楽全集でクラシックを聴くようになったのだから、今は多少、自分が詳しくなったからといって、偉そうに入門書を否定するつもりはない。しかし、旧態依然とした内容の通俗名曲ガイド的なものにはうんざりしてしまう。
さて、腹が立つのを通り越して、あきれてしまったのが日本で製作された、あるパイプオルガンのCD。まず、J.シュトラウスの《美しく青きドナウ》をオルガンで演奏したもの。演奏しているのは、「ウイーン」の、そこそこ名の通ったオルガニストだが、なめらかな弦の響きが一本調子のオルガンに置き換えられると、ブカブカ鳴るだけでなんとも滑稽。第九《合唱》と、バーンスタインの《トゥナイト》を組み合わせた「即興演奏」と称するものもひどい。第九のテーマと《トゥナイト》のテーマで二重フーガを即興するならともかく、テーマの扱いが極めて表面的で、ときおり、思い出したように出てくるだけ。なぜ、こんな演奏が収録されるのか。
このCDに限らず、日本のオルガン・コンサートや日本で製作されるオルガンのCDでは、この種の「名曲」のアレンジや、ポピュラー曲のアレンジがよくプログラムされる。オルガンを少しでも普及させよう、という趣旨そのものは大いに結構。しかし「オルガン曲はあまり知られていない。だから、もっと親しみのある曲を演奏すれば普及するだろう」という発想には賛成できない。安直な編曲ものは、一見わかりやすそうであっても、しばしばオリジナルと比較されてオルガンの欠点を露呈することになり、かえって逆効果。どんなに無名の曲であっても、本来オルガン用に作られた曲で、オルガンのよさをアピールするべきではないだろうか。
そこで、今回紹介するのは、ヴィエルヌ(1870-1937)の6曲の《オルガン交響曲》*。各曲とも30分〜40分以上の大曲だが、それだけにロマン派オルガン音楽の多用な音の重なりと音色の変化を存分に聴かせてくれる。楽器を熟知した作曲家の作品に勝るものはない、ということもよくわかる。
*Discography: Louis Vierne: Integrale des 6 Symphonies pour Orgue(REM 11047-1/2, 11048 3/4)
94/12 rev.95/11
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