(2)本舞台

能の舞台は3間四方の正方形をしています。

近代の舞台の多くは横に長い長方形をしていますが、能舞台のように正方形をとることによって奥行きを充分に使った演技が可能になります。奥行きを使うことによって、小さな象徴的な動作に大きな意味を持たせることができるようになるのです。

特に能のように非現実的な物語を演ずる芸能には、奥行きを使う演出は絶対必要です。

そして、それをさらに効果的にするために見所(けんしょ)と呼ばれる観客席も、この正方形の舞台を囲むように作られています。

また、橋がかりがあることによって、私たちはこの舞台を水上に浮かぶ島のように見ることができます。

「島(シマ)」とは「占(し)められた空間」のことです。「注連縄」によって「〆(しめ)」られた聖空間が島(シマ)なのです。

本舞台が「シマ」という聖空間になることによって、そこには生身の人間以外のものが出現するための素地ができあがります。鬼神、祖霊、亡霊、精霊などが自然に出現できるようになるのです。

本舞台はさらにイメージ上で9等分され、各部分にはおのおの名称がついています。舞や型を習うときにその名称が役にたちます。

また、特に足拍子の音響効果を得るために舞台の下には瓶(かめ)を入れるのが正式です。現代では違う方法で、この音響効果を得る方法も使われています。

舞台の方角は昔は北向きが慣例です。それは一番の観客である貴人が南を向いて座る(天子は南面す、と言います)ので、それに対応するように北向きにするのです。

しかし、舞台上で演ぜられる方角が流儀によって違います。いつからそうなったのかはわかりませんが、昔はすべて同じだったのでしょうか。それとも昔から各流儀による主張があったのでしょうか。

「能楽全書」などによれば、北面と想定するか、舞台の本当の方角にあわせて演技をするのが本来の形だと言いますが、本当のところはわかりません。