第4回国際イルカ・クジラ会議江ノ島フォーラム
プレゼンテーション


ENOSIMA

「グローバルなイルカ・クジラの研究」

山本聡(Satoru Yamamoto)

(ハワイ大学海洋生物学研究所・調査助手)

学習院大学心理学科卒。グルフ大学のD.E.ガスキン教授のネズミイルカ調査の助手として師事。後、ハワイ大学大学院心理学科に留学。同大ケワロ湾海洋哺乳類研究所で研究助手を務めながら主にバンドウイルカを対象に手話を用いたコミュニケーション、認知能力についての研究およびザトウクジラの行動、生態についてのフィールド研究を行いマスターを取得。ザトウクジラについては友人のD.ヘルウェッグと日本、ハワイ、メキシコ各冬期繁殖域での歌を初めて比較研究。また、イルカのトレーナーとしてのキャリアも同研究所で始める。現在はハワイ大学海洋生物学研究所海洋哺乳類研究プロジェクトに研究助手兼トレーナーとして参加しながらドクター取得を目指す。同研究所での主な研究 は歯鯨類のエコロケーションを中心とした知覚能力の研究だが、本人は脚類、海牛類を含めた海洋哺乳類全般を理解すべく努力中。また、ニューラルネットやロボット工学を用いたアプローチの可能性も模索している。


「グローバルなイルカ・クジラの研究」

 人類と同じように大きく複雑な能を持ち、情報交換などの複雑なコミュニケーションをとっていると言われるイルカやクジラ。その能力や知能に対しては、現在各方面からの研究がなされ、人間の脳とさまざまな点で比較がされている。しかし、「イルカやクジラの脳と人間の脳は、最初から全く違う進化を遂げ、質が違うもの」だと語るのは、ハワイ大学ケワロ海洋ほ乳類研究所の山本聡。
 彼は学習院大学心理学科を卒業後、ハワイ大学で心理学を修め、その後現在までバンドウイルカを対象に手話によるコミュニケーションや認知能力の研究、ザトウクジラの冬季繁殖地での歌の比較研究などをしている。そんな彼のこの日のプレゼンテーションは、フロリダにあるディズニーワールド「リビング・シー」でのバンドウイルカとのコミュニケーション実験を撮ったビデオの上映や、海洋での観察風景のスライドを使い、和やかな雰囲気のなかで行なわれた。
 彼は人類の脳の急激な進化は、イルカやクジラの祖先が生活の場を陸から海へと移したあとに起こり、イルカやクジラの脳の進化もまた、海に入ったあとに独自な方向性を持ったのだという。直立歩行を始めて手を使うようになったことや、言葉を使い始めたことによって急激な発達をした人間の脳。それに対し、エコロケーション(音響探知)という独自な物体認識方法を発達させるために進化したと思われるイルカやクジラの脳。これら2つの高度に発達した脳は、構造も機能も質も全く異なり、イルカやクジラの脳や能力については、現在「まだ、なにもわかっていないということがわかったところ」(山本氏)だと言う。
 けれどこれは決して悲観的な状況ではなく、現在多くの研究者が独創性あふれる活発な研究を行い、多くの成果を生んでいると彼は言う。そしてそれらの研究1つ1つがイルカ・クジラと人間のコミュニケーションの可能性に大きな夢を与えているのだそうだ。
 何十年も前にエコロケーションによる物体認識の仮説を立てたケン・ノリス博士や、写真撮影による個別識別を確立したバーン・ワージック博士をはじめ、アメリカ海軍の潜水艦探知装置を使ってクジラの行動を観測しているクリストファー・クラーク博士など、山本氏から次々と紹介される研究者の話は興味深く、集まった人々の関心を集めた。
 なかでも船舶や海底油田開発が海中でたてる騒音が、イルカ・クジラに与える影響を研究しているアメリカのスティーブン・カトーナ博士の話は、私たち人間による新たな環境汚染を示し印象深かった。
 空中よりもはるかに早く、遠くまで音が伝わるといわれる海中。そこでエコロケーションをはじめとする音声によって互いにコミュニケーションをとっている鯨類にとって、この音による環境汚染は大きな問題だろうといわれる。「特に数百キロにわたって届くという低周波音が鯨類に与える影響の研究が、いま非常にホットな話題として研究されつつある」と山本氏は言う。これは具体的に言うと、現在地球環境規模の問題として取り上げられている”地球の温暖化現象”の調査研究のために海中でたてられる低周波の大きな音に対する鯨類研究者の危ぐである。水温が高いほど音の伝わる速度が速まることを利用して、深海でたてた音が伝わる速度を測り、海水の温度の変化を記録していこうというこのプロジェクト。この環境保全に対して前向きな調査が、一方で環境汚染を生む可能性があるという事実は、今後の環境保全に対する私たちの在り方を考えさせられるものであり、興味深い発表だった。


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