第4回国際イルカ・クジラ会議江ノ島フォーラム
プレゼンテーション


ENOSIMA

「オルカ:家族とのコミュニケーション」

ポール・スポング(Paul Spong)

(海洋生物学者、オルカ・ラボ主宰)

1939年、ニュージーランド生まれ。オークランド大学大学院で心理学博士課程を修了後、カリフォルニア大学大学院で鯨類の脳の整理学的機能と行動の関係を学ぶ。バンクーバー水族館で飼育下におけるオルカの研究を進めるうちに、人間を超えるオルカの精神世界に驚かされるが、閉鎖環境下での研究に疑問を抱き水族館を退職。1970年、バンクーバー島内海のハンソン島に野性オルカ研究基地(オルカ・ラボ)を設立し、背ビレによるオルカの個体識別、ハイドロフォンネットワークによる追跡ボートなし24時間体制モニタリングと採集した声の登録・分類を行っている。現在、太平洋オルカ財団理事。主著に「クジラの心」(平凡社)がある。


「オルカ:家族とのコミュニケーション」

 「オルカから多くのことを学ぶこと、それは私たちの将来に役立つことです」
 スポング博士は、1970年にカナダ、バンクーバー島内海、ハンソン島にオルカの野生研究基地(オルカ・ラボ)を構え、野生オルカの生態研究を開始。以来、背ビレによる個体識別や、博士考案によるハイドロフォン・ネットワーク(水中マイクを海底に沈め、オルカの鳴き声を収録)による調査結果を基に、海で平和的共存を実践しているオルカと、その社会について語った。
 オルカは海の捕食階層の中でも何百年も前からトップに君臨している、力強い生き物である。怖いもの知らずで、好奇心がおう盛。賢く、恐怖心がないとも思われる彼らは、独特な社会を作り上げてきた。
 オルカ社会の核は母親である。
 子供はポッドと呼ばれる”母系集団”のもとで、一生を母親や一族とともに過ごす。各ポッドは独特の言語(方言)をもち、高度な言語コミュニケーションによって、極めて結束力の強い家族関係を結んでいる。オルカは地球上でもっとも密接につながっている動物である、と言っても過言ではない。
 スポング博士は、米国カリフォルニア州の<サンディエゴ・シーワールド>に捕獲されている雌のオルカ”コーキー”を例にとり、24年間も離別しながらいまもポッドの方言を忘れていない彼女にとって、母親のいるポッドへ還すことがいかに重要か、オルカ母系集団のきずなの深さと自然へ還す「コーキー・プロジェクト」の重要性を説いた。
 オルカの社会は、また、長く安定した平和な社会である。
 博士が研究対象としている、ブリティッシュ・コロンビアのオルカのコミュニティ(組織)の場合、一万年の歴史を持つと推測されている。氷河期以来、海中の進化の頂点に立つものとして、平和的に生きてきたオルカ。
 果たして人類は、陸上の進化の頂点に立つものとして、これから一万年先、地球と 存続していくことができるだろうか。
 博士は、オルカの社会に数多くのヒントを見いだしたという。
 仲間同士で海の空間を共有する「協力」。鳴き声による「コミュニケーション」によってお互いのきずなを深め、リーダー不在でありながら、年長者の持つ慣習や伝統を尊重「信頼」し、必要と思われる個体へは慰めや「支援」をも与える。
 自分たちを捕食するものがいないほど、強大な権力を持ちながら、意図をもって「力を抑えて」表現し、他のオルカ派閥との意見の相違にもなんら無益な争いを持たず、”自分は自分、他人は他人”と干渉することのない、「自由」なオルカの生き方。
 凶暴な捕食動物である彼らが、なぜ平和に、これほど忍耐強く、穏やかなのだろうか?博士はこの疑問に、オルカには「恐れ」がないからではないか、と考察する。
 「一般的真実として、我々人類もなにも恐れるものはないのであります。地球上で恵まれていて、豊かです。そして将来的に生き残るには、この真実を信じ、コミュニケーション、理解、協力、そして忍耐力をはぐくみ、信頼を築くことです。
 私たちは心の奥深いところで自然への共感を持っています。そこに最後の望みがあります。自然界の制約の中で生きており、支配力はあるけれど支配はしない。この不朽の例としてオルカが挙げられます。オルカは希望のメッセンジャーであります。お互い、母なる地球と協調して、生きていけるという希望です。」
 ボブ・タルボット撮影によるオルカの美しい映像がマルチ画面いっぱいに映し出され、博士は最後に「We can do it(できるんです)」と残して、プレゼンテーションを終えた。


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