アメリカ、コネチカット生まれ。1989年5月、コネチカット大学生物学学士号取得。グローセスターの大西洋鯨類リサーチセンターでクジラの観察実習のあと、ニューイングランドでクジラ追跡遠征に携わったり、飼育下での生物研究の助手を務めた。1980年、テキサスA&M大学院に入り、メイン湾、メキシコ湾、ベリーズ、バハマのイルカとクジラを研究している。関心の中心は、野性イルカの個々のコミュニケーションと社会活動にある。中学生及び地域グループを対象にクジラとイルカの講義を定期的に行っている。
「バハマ近海におけるマダライルカの音声コミュニケーション」 今回の会議で唯一、女性の単独のプレゼンテーターとして登場したのが、テキサスA&M大学院に籍を置くキャサリン・ダジンスキー。彼女はグランドバハマ島水域に生息する大西洋マダライルカを対象に、野生イルカの行動パターンと音声の関係を研究している。
その研究方法は、独自に開発したビデオを使ったデータ収集が基本。指向性のあるマイクを付けて音声を発しているイルカを識別できるようにしたビデオを使うこの方法は、これまで行なわれてきた電子機器をイルカやクジラの背中につけて行動パターンを追うデータ収集のようにイルカやクジラを一度捕獲する必要がなく、データが捕獲できた固体に限られることがない。またイルカやクジラへの干渉も少なく、これらの点から、現在彼女の研究には多くの期待が寄せられている。
これまでの研究で、イルカの行動と音声の間には相互関係があることが証明され、一見戯れているように見える2頭のイルカも、音声情報を加えてみると相手を攻撃している場合がなどがあると彼女は言う。
そしてこれまでに観察・分析されたイルカの行動の中で興味深いものとしては、ポティングと呼ばれる2頭のイルカが互いに胸ビレで他のイルカの身体をなでる行動や、一方のイルカが相手の身体に自分の身体をこすりつけるラディングという行動を挙げた。とくにこのラディングという行動は、相手に対するおわびの気持ちや充足感を相手に伝える行動だと言い、チンパンジーなどに見られるグルーミングと同じものであろうと言う。つまりイルカはこのラディングによって、社会生活のなかでのお互いの位置づけをしているというのである。
このようにイルカは音声以外にも、視覚的なシグナルやこれら触覚行動などを使って、お互いのコミュニケーションをとっていることが証明されつつある。これが顕著に見られるのが親子関係で、雌が胸ビレで子供を抱えるようにして泳ぐ姿が多く記録されているそうだ。これは動物の社会性を考えるとき、重要な意味を持つ行動だといわれている。
この他、数頭のイルカがナマコを投げ合ったり口にくわえて泳ぎ回る戯れの行動や、相手に向かいアゴを鳴らすような威嚇行動など、イルカの社会性を示す興味深い行動パターンの数々が、バハマの美しい海をバックに泳ぐイルカのビデオやスライドを使って紹介された。
ここで紹介された個体間の威嚇行動や親子関係の構築などは、イルカに限らず、イヌやオオカミなどの肉食動物にも見られる行動で、これらの社会行動をする動物はさまざまなきずなを個体間に築いているといわれている。つまりこれらイルカの行動パターンの分析から、「イルカは個体間の調整された行動による安定した社会群をなしていると考えられる」と彼女は結論づける。そしてそこでは高度な音声信号がやり取りされ、年齢、性別、個体のアイデンティティ、社会的位置づけ、異性を受け入れるか否かなど、さまざまな情報提供が行われているだろうというのである。
これら彼女の口から語られる1つ1つの研究成果が、バックに流れるバハマの海を自由に泳ぐ美しいイルカの映像とあいまって、イルカという生命体へのさらなる魅力となり、見ているものを豊かな海中世界へと引きずり込んでいった。
そして彼女は・・・「より広い認識をイルカに持ち、どのようにイルカが環境に適応しているかを知ることが、いずれは私たちの住む環境にもいい影響を与えるだろう、そしてこのイルカへの興味が、環境保護へ目を向ける1つのきっかけになればいい」と、その講演を結んだ。
Copyright (C) 1996, Global Dolphins Village.