坂本龍一による"1996"アルバム解説より
(略)…この形態、ピアノ・トリオでここ4年ぐらい何回かコンサートをしてきま
した。ほとんどいつも同じメンバー、ヴァイオリンのエヴァートン・ネルソンとチェ
ロのジャック・モーレンバウムと一緒でした。エヴァートンはまだ20代、ジャックは
ぼくと同じ世代です。
彼らと会ったのはそれぞれ別のシチュエーションでした。
しかしわれわれ3人に共通して言えるのは、3人とも小さいころからクラシック音楽の
訓練を受けてきましたが、同時に様々な音楽、たとえばロック、ダンス・ミュージッ
ク、黒人音楽、レゲエ、ブラジル音楽など、世界中のあらゆる音楽を聴いてきたこと
です。
そしてそれらの音楽の影響をクラシックの素養の上にミックスしてユニークな
音楽をやろうとしている、これがわれわれの共通するところです。ですからこのピア
ノ・トリオはヴァイオリンやチェロが弾ければ誰でもいい、という訳ではなくやはり
彼らとの出会いがあったからこそ、実現したものです。
さてここ数年コンサートを重ねてきて、だんだんとぼくらはこのピアノ・トリオの
ユニットが自分の音楽を表現するのに、最小限ながらとても効率のいい形態だと思う
ようになってきました。
(中略)…(クラシック音楽や黒人音楽の素養、近代音楽や
ジャズのハーモニー、ポップや前衛的な表現などの)どれをも過不足なく演奏できる
人はとても限られています。その点ではエヴァートンとジャックはこの難しい要求に
こたえてくれる、数少ない演奏家だと自負しています。特にジャックはチェロで即興
ができる世界でも珍しい音楽家です。またエヴァートンはジャマイカ人の血がそうさ
せるのか、クラシック演奏家には持っていない素晴らしいリズム感があります。
今年は6月から9月にかけて、このつつましいユニットでニューヨークを皮切りに
、ヨーロッパ、アジアを回ります。まだ行ったことのない国々---ギリシャ、ポルト
ガル、オーストラリア、シンガポール、台湾など---に行けるので、とても楽しみで
す。知らない国の人々の前で演奏するのは、とっても気持ちのよいことです。
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