BEATMAKS (vol.1/JULY 15.1984) p6-p9
昨年の東京・広島ツアーに引き続き、今年は全国ツアーを敢行した彼らが、テープのこと、ビデオのこと、そして「博多」を取り巻くものの現状について語ってくれた。
 モダン・ドールズは何かを持っている様だ。いや何かを作ろうとしている様だ、という方が正しい。 そう思えてならない。昨年の東京、広島ツアーに引き続いて今年の関西を含めたツアー。 だがあくまで福岡で何かをしようとしている彼ら。このインタビューはそこら辺の問題を中心に、4月26日ビブレ・ホールで行われた初のソロ・コンサートの翌日行なったものだ。
 モダン・ドールズの現在のメンバーは、  佐谷光敏(Vo.)
 平山克美(g.)
 松川泰之(g.)
 田中ヒロユキ(b.)
 下鳥浩一(ds.)の5人である。
 佐谷が電話で指定して来た某喫茶店で待っていると、練習を終えたメンバ^全員がやって来た。思えば酒が全くない彼らと話をするのは初めてのことだ…。

今回のツアーは去年行っていないところも予定に入ってますね?
佐谷=うん、関西と名古屋は去年行ってない。

大阪って東京と全然雰囲気が違うってよく聴きますね?
佐谷=なんか土着精神が強そうで。泥臭いのやないといかんていうのがあるみたい。でも京都はそうでもないんじゃない?

去年のツアーにはどういう目的があったんですか?
佐谷=去年のはもうマンネリ打破だけね。福岡で、こう何していいか判らなくなってしまって、その何かを見つけに行こうっていうんで。それと、俺達福岡以外のところではどんな反応があるのかなあいうのと。 観察してくるみたいな。今回は違うけどね。去年だいたい向こうの雰囲気の様なのをキャッチできたけん、今回は、まあ本格勝負いうんやないけど、ひと勝負みたいな感じでね、ある面においての。名古屋と関西は初体験しに行くけどね

それで去年のツアーの結果を元に、今回のための対策という風なものは練ったワケですか?
佐谷=それがね、去年俺達「よし東京に行くぞー。」いう感じで変にリキんでたところがあったんやけど、実際行ってみて、そんなんじゃない。福岡と一緒に考えていいみたい。他のバンドはどうだったか判んないけど、俺達としてはねぇ、 博多弁でも良かったしさ(笑)。
福岡でやる場合、ここでこういう風にノデてとか、曲順とかいろいろ考えてシナリオ書くやない? ところが東京でもそれと一緒なワケ。東京でも同じシナリオで、同じ様に客が動くっていう感じ。


東京から来るプロ・ミュージシャンからよく聞くんだけど、東京は醒めてるって。
佐谷=いや、そんなことなかったねぇ。
平山=なかったよね。
松川=(福岡の)客にスナオなところがあるんじゃないですか?
平山=福岡には東京コンプレックスがあるもんね。東京から来たのやったらなんでもOKいう感じの。


昨日のソロコンもVOR(ビブレ・ホールで行なわれる自主コンサートの企画名)で観客動員数が最高だったし、 そこで販売してたテープも売り切れたみたいだけど、ソロコンもテープも初めて、いうのはモダン・ドールズというグループを考えると ちょっと意外な感じもしますね?
松川=いままで何回も機会あるごとに録音はしてたんだけど、どのテイクも満足いくものじゃなかったんですよ。 で今回大分のスタジオで録ったヤツを聞いてみて、テープ発売ぐらいだったらしてもいいんじゃないかってなって。

じゃ、テイクさえよければすぐテープ発売しようっていうのはあったんだ?
佐谷=いや、なかったちゃ。(テープを手にしながら)これも発売するとは考えなかった。
松川=回りがねえ、出さないのかいう感じになったのもあるし。
佐谷=ソロコンにしても、ただやろうっていうんならいつでも出来たと思うけど、自分たちの頭の中で描くスタイル、いうのがあるじゃない?  それがなかなか定まらんで、いつもいつも変わりよったけんね。そんな状態でソロコンやるんなら、いろんなバンドと対バン組んでやって、そっちから影響受けていいもの作ってった方がいいし。 とにかくソロコンはまだする時期やないって感じとった。 で今回またツアーに行くことになって、俺達がこれまでやって来た福岡でソロやったら、どのくらい客が来てくれるか知ってみたいというのもあって踏み切った。


「夜のシーサイド・ラヴ」などのピアノのクレジットが平山さんになってるけど?
佐谷=うん、結局自分たちだけのフィーリングを大切にしたかったから。カッちゃん(平山)より他にウマイ人連れて来た方が、そりゃよっぽどイイ音になるのは判かっとっちゃけど、 それより俺達にしか出せんフィーリングを、そんなんじゃ出せないということで。 だから未完成でも「表現しよる」段階でもいいやないや、自分たちの音やけんて。
平山=そういう人材がおらんかったいうのもあるし、ビートルズなんか初期の頃全部自分たちでやってたでしょ、ジョンがピアノ弾いたり…。
松川=技術よりアイデア。
佐谷=実際ウマクなりたいとか思わんもんね。ウマイと言われるより、カッコイイって言われたいし、スタジオでいろんなミュージシャンの手借りて、 いっくらハイ・レベルのもの作ったって、それはモダンドールズの今を表す音やない。



ここで田中と下鳥がアルバイトに行くため席をはずし、残った我々も喫茶店を出る。次の場所は勿論、飲み屋。 だいたいあの佐谷がなんで喫茶店なんか指定してきたのか意外に感じていたのだが…。
ビールで乾杯するや否や、がぜん話が盛り上がり始める。まずは知り合いの専門学校の先生と一緒に作ったというプロモーション・ビデオの話から。 このビデオはソロコンの一部、二部の間でも放映されていたし、観た人も多いと思う。 特に「浮気なジャングルビート」のテイクは色が鮮やかでキレイだ。


プロモーション・ビデオを作ったのは?
佐谷=ビデオやけ説明せんでもいいことがいっぱいあるやない、視覚的にさ。どんなバンドかて一番解りやすい。

東京の出版社なんかにも持って行ったんでしょ? 反応はどうでした?
佐谷=どこでも、割かし良く出来とうね、みたいに言ってもらったけど…、 俺達一般的にめんたいロックとか言われてる音とは違うやない? でも東京の人達にしてみればニオイはやっぱり博多のニオイらしくて、何ていうかいままで博多から出て来たバンドのイメージとは違う、 けどやっぱり博多のニオイがする、そんな新しいスタイルのバンドって受け取ってくれた。

やっぱり博多のニオイって?
佐谷=不思議。でも俺達だってロンドンの音聴いて、そしたらやっぱりロンドンのニオイっていうの感じるわけだし、 それと同じかな? 分野とかジャンルは違っても、ああロンドンやなって感じられるニオイ。 博多のバンドにもそれがあるみたい。
平山=博多ぐらいのもんやないかいな、出身地聞いて音想像できるバンドのおるとこて。


「めんたいロック」って言われて反発は感じますか? 一つのワクにまとめられてるとか。
平山=マージー・ビートと一言でいうても、やりよる音楽はそれぞれ全然違う。
佐谷=博多出身、福岡出身いうんはどうしようもない事実であって。 あの時は(モッズ、ロッカーズ、ルースターズがレコード・デビューした頃)ただバンドが同じ場所からいくつか出てきて、 それをマスコミが無理矢理ひとまとめにしようとして作ったのが"めんたいビート"か"めんたいロック"かしらんけど、 そういう言葉であって…。今はもう何も言われよらんから。結局一つのジャンルにはめ込むことは出来んかったようやけど。
平山=プロモーション・ビデオ作ったのは、やっぱり視覚的な要素がこれからバンドを評価する上でも、 クローズ・アップされるんやないかいうのもあってね。
松川=そこで俺達もそんなところを大切にしようと…。
佐谷=え? 松川、整形すると?(笑) いや、これからはビジュアル的要素がないとダメやと思うね。 そういうのは、俺モダンドールズ作った時から思っとったしさ、そうやなかったら年甲斐もなく(笑)、ね?  俺、ステージでクサいアクションした時が一番ショックやん。歌間違えてもショックやない。 もうライブっていうたらレコードと違うしさ、どんだけ客にこっちのアクションば伝えて、どんだけリアクション返ってこさすかやけん、 歌詞間違えたぐらいで別にライブがメチャクチャになったとは思わんけど、ギターのストラップがはずれたとか、すごいショックやもん。
松川=はずれたらはずれたで、それなりの対応いうんはあるけど。
佐谷=ピート・タウンジェントにしても、ステージで突然音が出んようになって、 普通やったらアンプの方に行ってモサモサするじゃない? そこをあいつはギターをブッ壊してしもうた。このヒラメキ。 勝負っていうかさ、一つのアクシデントをどう乗り越えるかの一瞬のヒラメキやない? それロック演ってて、ステージ演ってて一番面白いところで。 そのヒラメキいうんを大事にしたい。特にステージいうビジュアルなもんの中では、ホント大切なもんやと思う。


モダンドールズってイギリス、それもロンドンをかなり意識してる様だけど、やっぱり日本の、博多のグループでしょ? そこらへんをどう考えてるのかな?
佐谷=う〜ん。あんまりイギリスに執着しとるわけやないけどね。 曲の5割くらいは俺が作るんやけど、イギリスの曲っぽいハナウタしか出てこんワケ。 そこに演歌のエッセンスだってやっぱり入ってくるだろうし。小さい時から、そりゃ「夜明けの停車場」みたいなのも聴きよったけど(笑)、 やっぱりイギリスものを圧倒的に多く聴きよったし。
平山=俺もビートルズに始まってストーンズとか、好きなのが全部イギリスやったもん。
松川=意識的なものじゃなくて、自然とそうなる。
佐谷=例えば柳ジョージの曲を、俺達が全く同じアレンジでやったとしてもイギリスっぽくなると思うしね。 影響されてきた音楽性の違いやね、これは。それと最近デビッド・ボウイがアメリカを意識し出したって言われるけど、やっぱりどうしてもイギリスニオイ。 「フェーム」にしても「ヤング・アメリカン」にしても…。イギリスと日本の共通点いうのは広い空がない、広い大地がない、 それで湿った音になってくるし。アメリカの音楽いうたら、実際こう広い大陸が見えてくる様な音やない? 俺そんな大陸見たことないしさ。 日本で言うと北海道の松山千春なんかはソーダイな歌を作りんしゃるけどさ(笑)。 俺なんかにゃとても書けんもん、あんな歌。

じゃ、日本人のオリジナリティーっていうと、いったい何なんでしょう?
佐谷=日本人てさ、すごい英語コンプレックス持ってると思う、音楽で歌詞をノッける場合に。 で、キャロルが解散直前に英語の歌詞で歌ってるやない、自分たちのメロディーを。 すごくいいワケそれが。ということは日本人が作るメロディーって相当良いメロディって思うよ、俺。

それは日本人から見て?
佐谷=いやもう、世界的に。だから、日本語の歌詞で、日本人の作ったメロディーの曲っていうのは、もうアッチなんか及びもつかんくらい職人芸のいい曲やと思う。 …日本人の一番の才能あるところは、どんなモノも取り入れて、それを文化にしてしまうところ。 だけん、日本の文化いうて京都、奈良だけを訪ねるのはバカと思うし、この居酒屋にしたって、 「おう、飲もうぜ、これが日本よ!」なんて飲みよるのが、これビールやない? で、和服なんてほとんど着らんちゃけ。 そういう環境の中でイギリスのいいもの、アメリカのいいものを持って来て、それでいて体の中の日本人の血いうのは相変わらず流れとる。 いいものをすべて吸収する民族やけん、音楽をする上でもすごく面白いところやと思う。
平山=外国に対してウケ入れ体制万全やない?
佐谷=外国の曲なら歌詞の意味やら全く解らんでもカッコイーッで、日本のになると歌詞がクサイとくるワケ。 すごく特殊な聴き方やない、ね。
平山=その代わり知ってる単語が一つでも出てきたら、そっからイマジネーション広げていくのは強かろうねえ。 …マーシャルのアンプの音がカッコイイっていうのは、その音ばっかりずーっと聴いてきたけんカッコイイっちゃ。 なんでチョーキングがカッコイイか言うたら、黒人がふっとい指で生ギター、チョーキングするのがカッコイイっちゃ。
佐谷=ムキになっとうよ(笑)。ほんとそうね。でもそんなんでもやっぱり日本人らしさて出てくるもん。どっかに。 俺だって東京行って自分で東京弁て思って話す言葉が絶対博多弁やもん(笑)。そういう意味では絶対隠せんと思うよ、「日本人」ていうのは。


モダンドールズの名のもとで、今メンバーが当面の目標としていることは?
佐谷=もう騎兵隊。死ぬのは覚悟で敵陣に突撃! っていうあの大将になりたい。

詳しく説明して下さいよ。
佐谷=例えばプロになるイコール東京に住むっていうのがあるやない? それがオカシイと思うもんねえ。 どこにおってもプロ活動っていうのは出来ると思うったい。狭い日本なのにさ。みんな東京に住まな出来んかもしれんけど、福岡でプロ活動したいね。 松山千春とかさあ、札幌におりながらプロ活動しよるやない? 松田聖子だって久留米でやればいいんだしさ。 福岡で今の環境のままロックやれて、どうせ全国ツアーだってやるっちゃけん、福岡オフィス作って…。

去年ツアーの前に「まだ福岡でやることが残っている。」って言ったのはそのことなんですか?
佐谷=福岡でプロダクション作っていいと思うもん。でブッキングして、あとそれ回りゃいいっちゃけん。 東京にコビを売りすぎるよ、みんな。あっちが例えば、「夜のヒット・スタジオ」の出演交渉して来てさ、出ませんか、 ええ行きましょう、で出て「今夜はこの後何されるのですか?」「ええ今から最終の飛行機で帰ります」 それでいいと思うもん。東京、東京って…六本木より六本松よ!(笑)

でもマスコミからプロダクションから、そういうシステムがすべて集中している東京から離れて活動していくのは非常に難しそうだけど…。
佐谷=だって考えてん! 衛星中継する時代よ、今。「夜のヒット・スタジオ」にモッズが出る、ロンドンから衛星中継で。 まして福岡ぐらい。こっちからノコノコ安っぽく行くけいかんちゃ。来らせな!  俺の理想はそうだけど、いつ曲がって東京に行くか判らんけど…。
松川=その辺はね、実際そう思っとるけどどうしようもない時はね。
佐谷=臨機応変にやっていかないかんけども…今福岡でやりたいことがあるというのはそれやんね。 福岡のミュージシャンがみんな福岡でプロの活動が出来ればそれに越したことないしね。
平山=大阪のミュージシャンだってすぐ出来ると思うっちゃんえ、それは。 大阪キー局の番組もたくさんあるワケやしさ。それなのに東京に行くもんね。
佐谷=マコちゃん(鮎川誠)がよく言う言葉やけど、出稼ぎやもん。なんでロック・ミュージシャンが出稼ぎ行かないかん?  その土地その土地で生まれたバンドは、そこで骨を埋めるまでやるべきやと思うし。それが自然やもん。
松川=プロになるならとか、プロになったから東京に行くっていうのはマチガイですよね。 だからさっき言った切り込み隊長じゃないけど、俺達からそれを変えて行きたいっていうのがある。


なるほどね。
佐谷=どこにしたって「ここにいちゃ全国的な活動は出来ん。じゃ東京行って錦を…。」 もう、その時代は終わりよ。

昨日ビブレでやって、ツアー行って来て、ファイナルをまたビブレでやるっていうのは、そういう博多へのこだわりから来るものなんですか?
佐谷=いや、こだわあっとうわけじゃないったい。…だって自然やない? ただ…地元はいつも大切にしたい。 固めたい。こだわっとうかな、やっぱり。俺達にしても、他のバンドにしてもそれを囲むライブハウスにしても地元のメディアにしても、一つ一つは燃えよるワケ。 でもいつも不完全燃焼。ガスば燃やそうと思ったら、まずガスがいる、マッチがいる。 そして空気がいるやろ? 空気がないけんいつもブスブス不完全燃焼。だけんいつも、博多? あ〜何か温ったかいもんがあるね、面白いね、で終わるっちゃ。 アチッ! って感じる様なもんが博多には絶対あるっちゃけん。東京にも大佐かにも負けん様な。それを完全燃焼させなきゃ。


インタビューを終えた彼らと別れた時はもう午前4時を回っていた。本当にジョーク好きな連中で、インタビューの録音を聴きながら原稿にしていると、 そういったジョークがどんどん出てきて編集するのに苦労した。
それでも音楽について、バンドの方向について語る時のメンバーの目差しはジョークを飛ばす時とはうって変ってスルドイものになる。
モダンドールズは博多という土地、自分達が生活している土地を非常に愛している。 すべてが集中した都市東京を相手に今彼らは戦っている、そして勝つために必死の攻撃を続けている。 だが佐谷も言う様に、彼らだけで戦ったところで不完全燃焼に終わってしまうのは明らかなことだ。 福岡に住む音楽に携わっている人々が自らその意識を変えないことには、ますます東京という怪物の天下になってしまうだろう。
この本が書店に並ぶ頃には彼らもツアーを終え、再び福岡でソロコンを行っているハズである。 ツアーでどれほどの成果をあげて帰って来るのだろうか、期待したい。


(c)BEATMAKS


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